「安楽死特区」
反コロナワクチンでメディアにも多数登場する医師、長尾和宏の小説が原作の映画だ。
映画を観た後で調べたところ、小説はエンターテイメント性を求めたためかリアリティが低い設定になっているようだが、映画はかなり現実的な設定、内容になっていた。
ごくごく近未来の日本では、国と東京により安楽死が法的に認められた安楽死特区が設立されていた。
不治の病などで余命宣告された患者が「ヒトリシズカ」と言う施設に入居し、3週間の間、安楽死を本当に望んでいるかの問診を医師団から受けた上で、薬物による安楽死を行っていた。
しかし当然、世論には強い反論もあった。
ラッパーの酒匂章太郎(毎熊克哉)と恋人のジャーナリスト藤岡歩(大西礼芳)も安楽死反対を唱えて集会に参加していたが、章太郎が若年性パーキンソン病を患ってしまう。
その事で章太郎と歩は、ヒトリシズカへの入居を申し込み潜入取材をすることにした。
章太郎と歩は、ヒトリシズカの中で様々な人と出会う。
末期がんの池田(平田満)とその妻(筒井真理子)、そして姉妹のお笑いコンビだった妹(友近)を亡くしている真矢(余貴美子)などである。
真矢は過去に、幼い息子も亡くしていた。
章太郎と歩は問診で医師に安楽死を否定する発言を続ける一方で、認知症を発症し、息子の事を忘れる前に死にたいと願う真矢の思いには共感してしまう。
そして章太郎の症状が一気に進行すると、章太郎自身が考えを変えるようになる。
章太郎、歩をはじめとして、安楽死を取り巻く人々の心の葛藤の描き方がとてもリアルだ。
個人的には、自分の死期は自分自身で決めたいと思っており、考え方は池田に近い。
だがそれは個人的な見解、と言うか希望で、それが世間一般の正論だとは思っていない。
少々ネタバレになるが、この映画でも安楽死が正しいのか間違っているのかは、最後まで結論を出していない。
ラストに謎のラップのダンスシーンがあるが、それこそが当事者の心の迷いなのだと思う。
原作では章太郎は薬剤師で、ラッパーではない。
アーティスト、特にラッパーは、体制に反発するものだと勘違いしているしょうもないスットコドッコイも多いが、自分の純粋な思いをリリックに乗せて率直に伝えるのがラッパーだ。
そのリリックは、誰かに反発することが目的ではない。
今回の章太郎もはじめは、その時に感じた安楽死に反対するリリックでラップを奏でるが、だんだんとそのリリックが降りてこなくなる。
それは病魔で思考能力が落ちているだけではなく、章太郎の中で、安楽死反対を素直に訴えられなくなっているためだとも思う。
そういう意味で、章太郎をラッパーにしたことも、作品全体に強烈に機能していた。
フィクションの映画が終わった後、監督の高橋伴明が安楽死を希望する「くらんけ」と言う実在の人物にインタビューする映像が流れる。
おそらく監督はこのくらんけ氏の事を知って、原作から内容を変更したのではないかと思う。
内容が内容だけに、名だたる名優が出演しているにも関わらず、あまりメディアでも紹介されていない。
しかしこの後の日本社会を考えるうえでも、非常に意味のある作品だと思った。
15.安楽死特区
by ksato1
| 2026-01-28 00:05
| 映画
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