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「爆弾」

通常、映画を観た順番通りに感想をアップしているが、この作品は先にアップすることにした。
TVCMを見た段階では、とぼけた連続爆弾魔と警察が、取り調べで駆け引きをする単純な心理戦かと思ったが、完成度の高いもっと深い内容の作品だった。

深夜、酒屋の自販機を壊した疑いで一人の男が野方署に逮捕される。
男は「スズキタゴサク」と名乗り、自分がどこに住んでいるのか忘れてしまったと言う。
所轄の等々力(染谷将太)が取り調べを行うが、スズキは何を聞いても暖簾に腕押しで要領を得ない。
そしてスズキは、自分は霊感があり、午後10時に秋葉原で何かが起きそうな気がすると言った。
すると午後10時、秋葉原駅前のラジオ会館が爆破される。
さらにスズキはこの後も何かが起きると言った。
スズキは本庁への移送を希望せず、このまま野方署で等々力の取り調べを継続することを希望する。
しかし移送はされなかったが、本庁から急遽類家(山田裕貴)と清宮(渡部篤郎)が派遣され、取り調べを行う事となった。

取り調べでスズキが好きなドラゴンズの話をした後、今度は東京ドームの横で爆破が起きる。
スズキは清宮に九つの尻尾というゲームを開始し、質問に答えてくれれば清宮の心の形を言い当てると言う。
その中で「ハセベユウコウ」と言う名前を出してきた。
そしてゲームのやり取りの間に、スズキが九段下の新聞販売店に配達員の面接に行っていたことが判明する。
最初にスズキを逮捕した所轄の倖田(伊藤沙莉)と矢吹(坂東龍汰)が、爆弾が仕掛けられた配達用バイクを発見し、被害を最小限に食い止めた。

だがその後、スズキはチューチューなくネズミとおとなしく並ぶ馬に例えて次の爆破を予告、類家はネズミを子供と考えて保育園か幼稚園に爆弾が仕掛けられていると推測し、清宮は該当する代々木周辺の保育園と幼稚園に避難を指示した。
だが類家は、まだ何かが足りないと言う。
そしておとなしく並ぶ馬に例えられた、ホームレスの炊き出し現場が爆破された。

長谷部有孔 (ハセベユウコウ、加藤雅也)は警視庁捜査一課の刑事だったが、事件現場で自慰をしているところを同僚だった等々力に見とがめられる。
等々力は大事にしない代わりにカウンセリングに行くよう勧めたのだが、そのカウンセラーが小銭欲しさにマスコミに長谷部の情報を漏らしてしまい、週刊誌で報道されてしまった。
そして長谷部は電車に飛び込んで自殺してしまう。

類家と清宮が取り調べ室を出ている間に、スズキは筆記係の伊勢(寛一郎)に「スマホを無くした場所をあなたにだけ教えます」とつぶやく。
伊勢はその場所を携帯で仲のいい矢吹に連絡、矢吹と倖田はスマホを回収し、スズキが暮らしていたと思われるシェアハウスを調べることにした。
そこには爆弾を製作していたと思われる材料、道具などが散乱し、さらに椅子に座った死体があった。
その死体は長谷部の息子、石川辰馬(片岡千之助)の死体だった。

作品の軸は、スズキと警察の心理戦である。
最初は等々力、次に清宮、そして類家がスズキに対応する。
だがスズキは誰が相手でも独特のペースを崩さず、次々とスズキに翻弄され伊勢をも巻き込んでいく。
この、スズキ役の佐藤二郎の演技が素晴らしい。
元々実力のある俳優ではあるが、何を考えているかわらない得体のしれないスズキ役は、佐藤二郎以外には演じられなかったと思わせるほどの演技だった。
佐藤二郎の実力をこれでもかと見せつけられた。
そしてそれ以外の俳優陣も実力者を取り揃え、素晴らしい演技を見せてくれた。

全体の構成も、長谷部のスキャンダル以外は無理のない構成だ。
爆弾が仕掛けられた場所の意味が、少しずつきちんと明かされていく。
一瞬、これだけ頭が切れるスズキがなぜホームレスになっているのか、と疑問にも思うが、優秀であるのにホームレスになったスズキだからこそ、世間に復讐するためにこのゲームを始めたのだと理解した。
監督の永井聡は「ジャッジ!」、「世界から猫が消えたなら」、「帝一の國」あたりはなんだかボンヤリした作品を撮る監督だな、と言うイメージだったが、前作の「キャラクター」で独特の世界観を見事に表現した。
この作品でも、冒頭からラストまで切れることなく緊迫感が継続されていた。

舞台あいさつで佐藤二郎が、「『国宝』も素晴らしい作品だが、今年はそれ以外にも素晴らしい作品がある」と言っていたが、まさにその通りだ。
佐藤二郎が主演なのか助演なのかわからないが、主演男優は吉沢亮、助演男優は横浜流星の「国宝」コンビで確定と思っていた各映画賞も、この佐藤二郎の演技でまったくわからなくなってきた。
作品賞、監督賞も、映画賞によってはこちらに軍配が上がる可能性もある。
そのレベルの作品だった。


152.爆弾


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by ksato1 | 2025-11-05 00:05 | 映画 | Comments(0)