「響-HIBIKI-」

あまり期待はしなかったものの、予告編が面白そうなのでとりあえずくらいの感覚で観に行ったのだが、これが思いの外の傑作であった。
自分が出版業界にいるという事もあるが、かなり衝撃を受けた作品だ。

文芸誌「木蓮」の編集者花井ふみ(北川景子)は、新人賞に応募されてきた原稿を読んでいた。
Webからの応募のみ受付なので、原稿用紙で送付されたその原稿は規定を満たしていないのだが、ふみはその作品の完成度に驚愕する。
先輩を説得して二人でデジタル原稿に起こし、募集原稿としてしまった。
しかし封筒には作者名の「鮎喰響」としか記されておらず、連作先は一切記されていなかった。

その頃作者の鮎喰響(平手友梨奈)は高校に入学し、幼馴染みの椿涼太郎(板垣瑞生)と文芸部に入部した。
部室をたまり場としていたヤンキーを蹴散らし、部長の凛夏(りか、アヤカ・ウィルソン)に部員を勧誘してきてといわれ、蹴散らしたヤンキーのうち一番のリーダーを入部させてしまう。
響はありえないほど頑固なまでに自分の考えを貫き通し、人の意見など耳に入れないどころか言葉と時には暴力で相手をねじ伏せてしまう。
そんなある日、ふみは響からの電話を受ける。
響はふみの感想だけ聞くと満足し、連絡先を告げずに電話を切ってしまう。
響から連絡がありながら、連絡先を聞けなかった事で落ち込むふみ。
世間では祖父江秋人(吉田栄作)の新作が話題になっていた頃だった。

祖父江秋人は、文芸人気低迷の中、初刷が数十万部を誇る超人気作家だった。
ふみは祖父江の担当もしていたのだが、その関係で祖父江の娘の凛夏とも知り合いであった。
そして凛夏にも文章の才能がある事を見抜き、ひそかに凛夏のデビューを狙っていた。
ある日祖父江のエッセイ原稿を受け取りに自宅に行くのだが、その場で凛夏と凛夏のデビューの打ち合わせをする。
そこで偶然、遊びに来ていた響と出会うのだった。
別の日にふみは響を会社に呼び出し、面談をしていた。
凛夏も付き添いで来て待合スペースで待っていたのだが、そこにベテラン作家の鬼島(北村有起哉)がやってくる。
祖父江とも親しかった鬼島は凛夏とも顔見知りであったが、凛夏のデビューの噂を聞いていたため、その場でネチネチと嫌味を言いだした。
そこに面談を終えたふみと響がやってくるのだが、様子を見ていた響はいきなり鬼島の顔面を激しく蹴り上げた。
その場はふみが平謝りでいったん収まるのだが、後で3人で話をしていた時に、凛夏が「ちょっと困るかな」と言うと、響は鬼島と編集者が打ち合わせているバーに乗り込む。
そして鬼島に「文句があるなら私にどうぞ」と告げる。

とにかく痛快の一言である。
高校生という事で響自身や友達である凛夏を軽く見る人間を、次々と理屈と暴力でコテンパンにねじ伏せてしまう。
そこには、自分を大きく見せようという上昇志向はまるでない。
文章を楽しむ、この一言のみが、響の唯一の行動原理である。
そしてそれだけではなく、響の才能の前に敗れ去り落ち込んでいる者にも、響は容赦ない追い打ちをかける。
そこにも、自分の才能に対する驕りは一かけらもない。
響があまりにも正論で追い込んでいるのを見ているうちに、落ち込んでいる人間というのは、誰かにやさしい言葉を掛けてもらいたいがために落ち込んでいるのでは、とさえ思ってしまう。
響にとって文章を書くという事は、感情の入り込む余地などない、何よりも価値のある行動なのだ。

この現代で、芥川賞と直木賞の同時候補になること自体が「トンデモな設定」とも言えるだろう。
ただ、響が異常な行動をとればとるほど、発達障害の超天才が現れたら、実際に芥川賞と直木賞の同時候補になるかもしれない、そう思えてしまった。

そしてこの作品は、映画としてきちんと完結している点が素晴らしい。
ちょうどYahoo!ブックスで1~3巻が無料公開されていたので読み始めたが、原作から登場人物やエピソードをうまくカットするなど、きちんと映画用にストーリーを再構築している。
脚本、監督のセンスを感じる作品だ。

中でも、響役の平手友梨奈の存在感が圧倒的だ。
ある意味、原作の響よりも響らしいと言っていい。
これは監督の月川翔の手腕によるところが大きいだろう。

月川翔は実写版「君の膵臓をたべたい」でも、主演の浜辺美波のピュアな演技を引き出していた。
元々浜辺美波は演技力があるとはいえ、その存在感は素晴らしかった。
そして「君の膵臓をたべたい」は限りなくライトノベルに近い。
原作は読んでいないので推測でしかないが、映画を観た限りでは、2016年の本屋大賞2位を取っているもののティーンズ向けの作品であると思われる。
その原作を、ヒゲ面のover50のオッサンでもギリギリ観られる作品に仕上げていた。
監督自身がティーンズ向けのラブストーリー作品を量産しているため、これまであまり話題になっていなかったのかもしれないが、この作品「響-HIBIKI-」でしっかりと実力を世に知らしめた。

そして鬼島を蹴るシーン以外にも、響が屋上から落ちるシーン、パイプ椅子で後ろからぶん殴るシーン、踏切のシーンなど、かなり驚かされるシーンが多い。
これらに対比するように、時折微笑む響の表情の差し込み方や、響に振り回される人々の心情変化の描き方も巧い。
編集者としてのふみの矜持にも強く共感した。
この監督ならではの演出力だと思う。

ひょっとすると、平手友梨奈自身に相当な演技力があるのかもしれない。
演技はこの作品が丸っきりのデビューらしいが、それでもどこかの映画賞で主演女優賞を獲得してもまったくおかしくない。

そして少しでも出版業界に身を置いたことがある人間なら、一度は観ておく事を強く薦める作品である。


115.響-HIBIKI-


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by ksato1 | 2018-09-17 00:05 | 映画 | Comments(0)