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「バンクーバーの朝日」

監督は昨年の日本アカデミー賞監督である石井裕也。
出演陣も妻夫木聡、亀梨和也など超豪華で、フジテレビがこの年末年始にかなりゴリ押ししてきた作品だ。
フジテレビのゴリ押し作品は意外と面白い作品が多いのだが、この作品は今ひとつだった。

日本からカナダのバンクーバーに渡った移民たちの物語だ。
2世のレジー笠原(妻夫木聡)は、製材所に勤めながら地元の日系人野球チームのバンクーバー朝日に所属していた。
日本でも職業野球が発足したのだが、バンクーバー朝日は当然ノンプロ集団である。
レジーを含め仲間たちはみな職業を持っており、仕事の合間を縫って練習していた。
だが体格差もあり、バンクーバー朝日はカナダ人のチームにほとんど勝てず、リーグ戦も常に最下位だった。
さらに、安い賃金で働く日系人のためにカナダ人の仕事が奪われているというバッシングもあり、仕事と野球を両立するには困難な状況が続いていたため、チームを離脱する仲間も少なくなかった。
同胞の日系人からも、半ば呆れられながら応援されていた。

そんなある日、レジーは試合中に偶然バットに当たったボテボテのゴロを見て、バント戦術ならカナダ人に対抗できるのではないかと考える。
レジーの予測は的中し、バンクーバー朝日はバントや盗塁で連戦連勝し、一躍リーグの首位に躍り出た。
日系人は大喜びし、バンクーバー朝日を応援するが、カナダ人の中には面白く思わない者もいて嫌がらせも受けてしまう。
フランク野島(池松壮亮)はホテルのポーターの仕事を奪われ、日本に帰国する事になってしまった。
試合中も審判の明らかなカナダ贔屓のジャッジが続く。
だがカナダ人にも公正なジャッジを求める者が多く、次第にバンクーバー朝日はカナダ社会に受け入れられていくのだった。

正直、観ていて私はほとんど感動しなかった。

まず、脚本が良くない。
担当しているのは奥寺佐渡子という人で、よくよく調べてみるとアニメ版「時をかける少女」「八日目の蝉」や「パーマネント野ばら」なども担当している。
TVドラマで言えば、「夜行観覧車」「Nのために」などの湊かなえ作品も彼女が脚本を書いている。
力量がないわけではないのかもしれないが、この作品についてはハッキリ言ってメタメタだ。
ひょっとしたら彼女が書いた脚本をかなり修正されてしまっているのかもしれないが、いずれにしろ良くない。
どこが良くないかと言うと、メリハリがまったくないのだ。

序盤で当時の日系人の生活が苦しい物である事が語られる。
だがその後は、日本人の苦しい生活の描き方が細切れ。
レジーやレジーの父(佐藤浩市)、フランクなどは雇われているので、条件が厳しく貧しいというのはわかる。
だが豆腐屋のトム(上地雄輔)や漁業を営んでいるロイ(亀梨和也)などは、貧しいのかどうか伝わってこない。
ロイはカナダの役人から操業に関して嫌がらせを受けるものの、漁業自体は好調のようにも見える。
ましてや豆腐屋は日本人相手の商売だから、それほど苦しいようには見えない。
さらに、野球をしていない日本人会の中に、運転手と思われるユースケサンタマリアがいる。
彼なんかはかなり裕福に見えた。
当時の日系人の生活の苦しさがテーマのはずなのに、その部分が丸っきり希薄になってしまっている。

そして野球の部分もかなり設定が苦しい。
実際に、バンクーバー朝日がどのような試合をしていたのかわからないが、いくらなんでもバントと盗塁だけで連勝できるとは思えない。
誰もが「体格差で打球を遠くに飛ばすことができない」と悩んでいて、その結果がバント戦術である。
だったら内野を思いっきり前進守備にして、外野を内野の位置まで前進させれば簡単に防げてしまう。
おそらく、バントだけではなくバスターやエンドランなども絡めていたのだと思うが、野球の戦術が淡泊なので感動どころか「あり得ないだろう」と引いてしまった。
そもそも監督のトニー(鶴見辰吾)の存在意義がまったく不可思議。
指導をするでもなく戦術を考えるでもなく、完全にその場にいるだけ、バットを片付ける少年の方が働いていた。

脚本だけでなく、演出面もかなり単調だ。
「舟を編む」は長い長い辞書編纂と言うテーマだけに、石井裕也の独特の間合いが生きたが、この映画に関して言えば、とにかくワンカット、ワンカットが長くてダレてしまっている。
もっとテンポよく制作すれば、印象もまた違ったものになっていたと思う。

今年は観る映画を絞ろうと思っていただけに、いきなり出鼻をくじかれた感じで少々残念。

ただ、監督の力量は間違いないので、次回作に期待したい。

2.バンクーバーの朝日


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by ksato1 | 2015-01-05 23:21 | 映画 | Comments(0)