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「さよなら渓谷」と「ペコロスの母に会いに行く」

ギンレイホールも行こう、行こうと思っているのだが、どうも最近食指を動かされる作品が上映されない。
そんな中で、今回は「さよなら渓谷」と「ペコロスの母に会いに行く」の2本立てだった。
どちらも昨年、いくつかの映画賞で主演女優賞を獲っている作品だ。

まず「さよなら渓谷」で、こちらは真木よう子が日本アカデミー賞主演女優賞を獲得している。

俊介(大西信満)とかなこ(真木よう子)は都心からそれほど離れていない山間部に暮らしていたが、ある日長屋の隣に住んでいた女が自分の子どもを殺した容疑で逮捕された。
押し寄せるマスコミに辟易しながらも、俊介とかなこは淡々と夫婦の営みを続けていた。
どこかおかしな雰囲気の二人だが、俊介が隣家の女に子どもを殺すようそそのかしたのではないかと疑われ、警察に事情聴取される。
俊介はもちろん否定をするのだが、かなこが突然、俊介と隣家の女が不倫をしていたと警察に通報する。
緊急逮捕される俊介だが、彼はかなこの通報を否定しなかった。

この事件を雑誌記者の渡辺(大森南朋)が追っていた。
渡辺は社会人のラグビーの選手として活躍していたが、ケガで一線を退き会社も辞めてしまっていた。
その事が原因で、妻(鶴田真由)との関係も巧く行っていなかった。

渡辺と共に事件を追うのが、渡辺の後輩記者の小林(鈴木杏)だ。
二人は取材を進めるうちに、俊介とかなこの夫婦の秘密に迫っていく。

とにかく、一にも二にも真木よう子の映画である。
冒頭から気だるい雰囲気でSEXをし、その後もかなこから俊介を誘うシーンが続く。
観ている側も当然、何か事情があるのだろうと勘繰るのだが、最初は真木よう子の淡々とした演技になかなか結末が予測できない。
さらに朴訥な渡辺が不器用に取材を進める部分も効果的だ。
途中からストーリーの全体がなんとなく見え始めるのだが、その頃から取材をしている渡辺の葛藤や小林の感情が重なり合ってきて、見ている物を複雑な心境にする。

そして映画の後半では、俊介とかなこが暮らし始めるまでが描かれる。
そこでは真木よう子が激しく感情をぶつけている。

もっとミステリーの度合いが濃い作品かと思っていたので、少々肩透かしを食らった感もあった。
しかし、ちょっと悪ふざけのつもりだった行為で人生を大きく左右されてしまった人々が描かれている、非常に深い作品である。

最初から最後までかなり重苦しい雰囲気が続くので、人によって好き嫌いは分かれるかとも思うが、いずれにしろ真木よう子の演技が評価されて当然の作品である。


続いて「ペコロスの母に会いに行く」。

こちらは赤城春恵が毎日映画コンクールで女優主演賞を受賞、さらにキネ旬のベストワンにも選ばれている。
ただ、作品としての完成度はどうかというと、私は今一つの印象を受けた。

ペコロスとは玉ねぎの事で、主人公である漫画家の愛称である。
ペコロス(岩松了)は長崎で広告代理店に勤めながら漫画を描き、たまにライブハウスで演奏をしていた。
年老いた母(赤木春恵)と息子と3人で暮らしていたが、母の認知症が進行したため施設に預ける事にした。
物語は、認知症の母が巻き起こすトラブルと、彼女の生涯のエピソードで綴られている。

一つ一つのエピソードはたしかに面白い。
認知症には振込め詐欺も通用しなかったりする。
ペコロスの母の子どもの頃のエピソードや、戦争をはさんだペコロスの両親のエピソードもほろりとさせてくれる。
しかし各エピソードがバラバラで、全体のまとまりが希薄だ。
母の子どもの頃や若いころのエピソードも、現在のエピソードともっと強くリンクしていれば面白くなると思うが、過去のフラッシュバックにつなげるだけの簡単なフックでしかない。
ペコロスの子どもの頃は本人の記憶があるからいいとして、彼が生まれる前の話については、なぜそのエピソードが挟まってくるのか、よくわからなくなっている。
その他にも、ペコロスの父(加瀬亮)の給料日に、若き母(原田貴和子)は目の前にいる亭主をなぜ自ら連れ帰ろうとせず、幼い息子に必ずまっすぐ帰らせるように託したのか、またペコロスの妻はどこで何をしているのかなど、わからない事が多すぎる。

認知症を演じた赤木春恵は評価されるべきだし、ペコロスの岩松了もかなりいい味出していたが、年間のベストワンに選ばれる作品かと言うと、私はそうではないように思えた。
ただ低予算の中、制作者の情熱で一生懸命作られたという熱意は感じられる作品だった。


62.さよなら渓谷
63.ペコロスの母に会いに行く


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by ksato1 | 2014-04-26 19:03 | 映画 | Comments(0)