「つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語」
だが原作のレビューを見てみると、原作よりも映画の方が面白そうである。
映画はそこそこ面白かった。
それは監督の行定勲の力量か。
原作は短編集のように、各エピソードが淡々と流れるらしい。
映画もその手法に近いのだが、きちんとメリハリが付いている。
松生は妻の艶と、大島でレストラン&ペンションを経営していた。
ところが艶が病気になり、すでに意識もほとんどない状態であと何日もつかもわからない。
必死に看病する松生だが、妻の最期を知り知人に連絡を取ることにした。
知人と言っても、連絡を取るのはかつての艶の愛人たちだ。
幼少の艶をレイプした艶の従兄、艶の前夫、そして艶の元愛人と思われる男である。
そして各エピソードは、その男たちではなく、男を取り巻く女性を軸に展開する。
艶の従兄は作家で、本妻のほかに愛人がいる。
最初のエピソードの主役は本妻(小泉今日子)である。
そして前夫は離婚後一人で引きこもり生活をしているが、愛人の湊(野波麻帆)がいる。
湊は根っからの愛人体質で、前夫以外に他の男の愛人にもなっている。
このあたりまでは、だいたい想像していた話であった。
だがここから話は少し捻りが入ってくる。
艶の元愛人と思われる男は、あくまでも元愛人と思われる男である。
メールでキワドイやりとりがあったものの、本当に愛人だったという証拠はない。
その妻(風吹ジュン)は、松生の誘いに乗り大島に来るものの、最後まで夫と艶の関係を認めようとしなかった。
次の男は、島でバーを経営するユウだ。
だがこれも艶が一方的にストーカーをしていたのだが、艶と関係があったかどうかわからない。
艶がつき合った時系列的にだんだん現在に近い男になってくるのだが、単純に艶の昔の男、というだけではなく、付き合っていたかどうか微妙な関係になってくる。
さらに、舞台も大島となり空間的にも現在の艶に近づいてくる。
このあたりの捻り方が巧い。
そして最後のエピソードは、現在の艶の夫、松生の前妻と娘が主役となる。
艶のかつての男たちそのものではなく、その男と関係した女が主役と言う、ちょっと関連性のないエピソードが少しずつ折り重なるのだが、単調な話の繰り返しではなく少しずつシチュエーションが変わるという部分がなかなか面白かった。
最後まで、艶の顔はまともに画面に映し出されない。
艶は主役のようで、一番の脇役だったりする。
このあたりの手法も斬新だ。
「桐島、部活やめるってよ」の桐島に近いかもしれない。
そして、ラストに持ってきたのが艶ではなく、松生自信である。
若干、とらえどころのない映画と言ってしまえばそれまでだが、役者陣も実力者ぞろいだし、個人的にはなかなか好きな作品ではあった。
13.つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語