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「ストロベリーナイト」

さて映画の「ストロベリーナイト」である。
原作は姫川シリーズの「インビジブルレイン」だ。
屋外のシーンはほぼ雨という映画である。

暴力団の死体が発見され、中野東署に捜査本部が設置された。
姫川班は日下班、および暴力団関連の組対四課と一緒に合同捜査する事になったが、相変わらず角突き合わせ、捜査がなかなか進展しそうにない。
そんな状況の中、姫川は偶然タレ込みの電話を取った。
その電話は殺人事件の犯人が「柳井健斗」だと告げる。
姫川は早速「柳井健斗」を調査しようとするが、いきなり管理官から「待った」がかかってしまう。
しかも信頼していた係長からも、この件には触れるなと言われてしまった。

捜査本部から外れ、独自に「柳井健斗」を調査する姫川だが、そこである人物に遭遇する。
龍崎組の組長牧田勲(大沢たかお)だ。
牧田もまた、別の理由で「柳井健斗」を捜していた。
当初牧田は姫川に組長である事を隠し、姫川に情報を流して「柳井健斗」を捜させようとする。
だが、姫川と一緒の時に敵対する組のチンピラに絡まれて、正体がバレてしまう。
裏切られたと激怒する姫川だが、心に闇を抱えていた二人は次第に惹かれあっていった。

状況に勘づき始めた姫川班のメンバーは必死に姫川をフォローしようとするが、暴力団組長の牧田と一緒にいる目撃談も増え、だんだん庇いきれなくなってしまう。
姫川を慕う菊田が姫川に近づくなと牧田に直談判に行くが、姫川の暴走は止まらない。
牧田から銀行口座を聞き出し「柳井健斗」に迫りかけるのだが、ついに刑事部長命令で事件の捜査本部から外されてしまった。
それでも「柳井健斗」を追うべく、姫川は単独行動を続ける。


事件の結末の部分が、やや強引な感じもする。
全体に結末に関する伏線があまり引かれていないため、「そいつが犯人かい!」と言う人もいるだろう。
ただこの映画は、トリックとか動機とかがキモではない。
警察上層部の隠ぺいを暴こうとする姫川が、牧田にシンパシーを感じて恋愛感情を持ってしまう、立場上完全に行き詰りながらも姫川班の部下たちが彼女を支える、でも牧田に惹かれている姫川に菊田は納得がいかない、それは姫川も感じている、さあ、どうする?という映画である。
ある意味、現場を無視する上層部に立ち向かう中間管理職と言うサラリーマン的な部分と、絶対に好きになってはいけない敵に惹かれてしまうという恋愛ストーリーが見事に調和した映画なのだ。

特にこの恋愛ストーリーの部分は、姫川が刑事になるきっかけとなった暴行事件とも絡んでいるので、ストーリーに1本筋が通っている。
牧田に「殺したいヤツがいるんだろう?」と聞かれ、姫川は刑事として封印していた感情を噴き出させてしまう。
牧田自身、自分の生い立ちの中で「殺したいヤツ」がいたため、姫川の気持ちがよくわかっていたのだ。
このあたりの設定に無理がない。
そして、シリーズを通して姫川への思いを貫いてきた菊田が絡んでくる。
いや、もう本当に菊田には泣ける。
自分の感情を殺して、最後まで姫川に刑事としての思いを遂げさせようとする。
予告編で何度も流れる「オレ達は姫川班です!」と言うセリフは、菊田の気持ちを考えると本当に重い名セリフだ。

すでに映画の後日談のSPドラマも放送されたが、その中の「東京」は原作では姫川が主役だったそうだ。
しかしSPドラマでは菊田が主役だった。
ここで、どうして菊田がトレードマークの肩パンチをするようになったのかがわかるのだが、これを見ても本当に泣けた。
今回の映画も、空模様はすべて菊田の心情を表していたのではないかとも思う。
刑事としての菊田は「SPEC」の瀬文と並んで、私の中では歴代のドラマの刑事でも1、2を争うカッコ良さである。


単純なミステリー映画としても悪くないので男性も楽しめるし、女性は恋愛映画としても楽しめるだろう。
設定も面白く非常に完成度の高い映画だとは思うが、唯一の欠点は、TVドラマを見ていないと微妙な人間関係とか心の機微がわかりづらいところ。
ただ、最初から見ないと何が何だかわからない、という事もない。
映画を観た後DVD借りてドラマを見ても、十分満足できると思う。
「どこから見始めてもOK」という全体のシリーズ構成という部分でも、やはり完成度の高い作品だ。

原作にはまだ映像化されていない『ブルーマーダー』という作品があるらしい。
その他、短編にも映像化されていない作品があるようだ。
SPドラマでも映画でもいいから、ぜひぜひもっと続編を制作してもっともっと楽しませて欲しい。
場合によっては、原作にないオリジナルのスピンオフもいいかもしれない。
映画の最後の記者会見のシーン、和田課長を追って走り出す記者たちの中、唯一質問をした記者一人だけが、思わせぶりたっぷりに席から立たなかった。
あの記者と和田課長の過去の話とかね。
あるいは、牧田が組の中でのし上がるまでの話とかね。
SPドラマなら十分制作可能だと思うけどな。

いずれにしろ、今回で終わらせるにはとても惜しい作品だ。
機会があったらぜひシリーズ全作品を見て欲しい。
絶対に損はない。


11.ストロベリーナイト


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by ksato1 | 2013-02-05 20:49 | 映画 | Comments(0)