ホットコーヒー裁判~アメリカは訴訟天国か~

たまたま番宣で見かけた、BS世界のドキュメンタリーシリーズ「ホットコーヒー裁判の真相~アメリカの司法制度~」を見る。
タイトルは「ホットコーヒー裁判」で、この裁判が導入となっているが、日本人には知られざる現在のアメリカの裁判制度が紹介されている。

日本人のイメージするアメリカの裁判と言えば、「訴えた者勝ち」の訴訟天国だろう。
ちょっと日本人の感覚とは違うよね、と思っている人も多いと思うが、実はアメリカ国内でも同様な認識はあるようだ。
1990年初頭の「ホットコーヒー裁判」も、アメリカの街頭でインタビューをすると「運転中にホットコーヒーこぼして何万ドルもせしめた事件だろう?」という人がほとんどである。
ただ、人々がイメージしている内容と実際の事件は少し違う。
孫の運転する車の助手席に乗っていた老婆が、止まった車の中でホットコーヒーの蓋を開けるとき、誤って太ももにコーヒーをこぼしてしまった。
しかしコーヒーの温度が90度近くあったため、命にかかわる深刻な火傷となってしまい皮膚移植まで行った。
そのため治療費が1万ドル近くかったそうだが(アメリカは社会保険がないためと思われる)、その金額を賠償請求したとの事だ。
番組では火傷の写真も映されていたがたしかに酷い火傷で(結構グロかった)、インタビューで笑いながら答えていた人も写真を見ると「こりゃ酷い」と同情している。
裁判では、マクドナルドのドライブスルーはオフィスに到着したときに飲む想定で、コーヒーの温度を10度近く高めに設定していたことがわかった。
そして過去10年間で700件近く火傷に対する苦情があったにもかかわらず、マクドナルドがそれらの苦情を無視していた事を考慮し、マクドナルドの過失が80%で16万ドルの賠償金と、270万ドルの懲罰的損害賠償を命じられた。
しかし実際にはその後和解が成立し、マクドナルドが支払ったのは60万ドル未満(非公開)だったそうだ。

この事件が契機になっているかどうかはわからないが、アメリカでは「タバコ裁判」をはじめとした、企業を巨額で訴える訴訟が90年代に頻発している。
そこで企業が考えたのが、こういう巨額訴訟を起こさせないための施策である。
各州の議会を動かして、巨額訴訟を防止する法律を作ろうとしたのだ。
それを考えたのは、フィリップモリスの経営顧問だかなんだかを担当していた経営コンサルタントである(名前は忘れてしまった)。
彼はまず、テキサス州知事に立候補していたブッシュを後押しし、テキサス州で損害賠償費用の上限を儲ける法案を通させる。
それが全米に波及し、今でもいくつかの州で損害賠償費用の上限が設けられている。
その結果、医療訴訟で勝訴しても、十分な損害賠償を得られないケースも出てきてしまった。

ネブラスカ州でもこの法律が成立しているため、出産時の医療過誤で障害を持つことになった両親と子どもが賠償請求額を減額されている。
陪審員は彼の一生分のサポート費用として賠償請求額を560万ドルと決めたが、実際に裁判所によって命じられた金額は100万ドルだった。
全米各州でこの法案を通すために取られた作戦が、「ホットコーヒー裁判」を使用したネガティブキャンペーンである。
事実とは異なるキャンペーンを展開し、企業が訴訟用に保険会社に支払う金額が多くなれば、製品の値段に転嫁される、と宣伝したのだ。
しかし賠償請求額の上限が決められた州においても、企業が支払う訴訟用の保険金額は減額されてはいない。

ブッシュをはじめとした企業側は、さらに各州の最高裁判官選挙の買収という戦略に出た。
ミシシッピー州のある最高裁判官は、ネガティブキャンペーンを乗り切ってなんとか最高裁判官に再選したものの、企業側の嫌がらせにより何度も告訴をされて業務を妨害され、挙句の果てに次の選挙では落選してしまった。

そして一番恐ろしいのは「強制的仲裁条項」だ。
現在アメリカのクレジットカードや携帯電話の契約書には、ほぼこの条項が盛り込まれているらしい。
しかも契約時ではなく、最初の請求書が届いた時点でこの条項が告知されるため、ほとんどの人が気付いてないそうだ。
アメリカの司法制度を詳しく知らないのだが、この条項があると一切訴訟ができないらしい。
双方が仲裁人に言い分を申し出、それを聞いた仲裁人が一存で判断をして、その結果には異議を唱える事はできない。
仲裁人はその後の仕事の発注を考えて、実に9割以上が企業側に有利な判断を出しているとの事だ。

番組では、イラクに派遣された女性が現地でレイプされたもの、雇用契約にこの条項が盛り込まれていたため訴訟ができないと報じていた。
その後、議会の聴講会などを経て「米軍の下請会社は強制的仲裁条項を設けられない」という法律が可決されたものの、彼女自身は昨年の裁判で敗訴したそうだ。

こうなってくると、そもそも巨額の賠償請求を命じた90年代の陪審員に問題があるんじゃないか、という気もしてくる。
番組ではその部分にも少し触れているのだが、アメリカの感覚では陪審員制度は司法制度の根幹であり、これ以上の司法制度などあり得ない、と強く論じていた。
この部分については、少なくとも番組を見る限りでは異論を唱える人はいなかった。
うーん、そのあたりはやっぱり日本とちょっと感覚が違うよね。

どっちがいいかはわからないけど、よく考えもしないで「自分を守ってくれる法律だ」なんて思っちゃいけない事だけは、よくわかった。
単純に感情や自分の損得勘定だけじゃなくて、社会システムにどう影響するのかを、足りない頭でもきちんと考えなきゃダメだね。


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by ksato1 | 2012-03-30 21:53 | 日記 | Comments(0)