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「開拓者たち」

1月にBSプレミアムで放送された、「開拓者たち」を見る。
日中国交正常化40年記念として制作されたドキュメンタリードラマだが、非常に出来がよかった。
でも同時に、なんでこんな目立たない放送枠にしたんだろうと不思議に思った。
再放送がいつ行われたのかはわからないが、1話目が元旦の午後9時からの放送。
最初からチェックしていた人じゃなきゃ、元旦の夜にBSプレミアムで放送されるドラマなんてまず見ないだろう。
その後の2~4話も日曜の午後10時からの放送で、こういうドラマが放送されているってなかなか気付きづらいよね。

物語は、東北の貧しい農家に生まれたハツが、口減らしのために集団結婚で満州の開拓地千振に嫁入りするところから始まる。
ストーリーはほぼ事実に基づいて構成されており、途中途中に実際に開拓地から引き揚げてきた人たちの証言が挿しこまれる。

私のイメージで戦前の開拓移民と言えば、それはすなわち「棄民」であった。
学生時代に授業で「ブラジルの日本人」と言う本を講読したが、明治時代の日本の開拓移民と言えば開拓地が約束されている訳ではなく、とりあえず農家の長男以外の家族を海外に送り込むだけの施策であった。
だから現地に着いてみたらとても農地になるような場所じゃなかったり、酷い時には現地で奴隷として契約されている場合もあったらしい。
なのでこの番組もそのイメージで見始めたのだが、実際には満州での開拓移民は、明治期の開拓移民とは様子が違っていたようだ。

満州の開拓移民は、基本的に土地が確保されている。
しかしそれは当然、現地の中国人から没収した土地である。
場所によっては本当の荒地だった事もあったようだが、この物語の千振は満州でも2番目の開拓地だったらしく、冬は寒く土地が凍るものの成分としては非常に肥えた土地だったとの事だ。
当時の人の話では、特に何もしなくても播くだけで大豆やトウモロコシが面白いようにでき、牧畜も盛んで肉も食べ放題だったらしい。
ドラマではそこまでは語られていなかったが、おそらくそれほど肥沃な土地であったと言う事は、すでに中国人が農地として利用していた土地を満州軍が接収したのではないかと思われる。
実際ドラマの中にも、匪賊が土地を取り返そうと開拓コロニーをたびたび襲うため、満州軍の警備の他に、開拓民も銃を持って防備しているシーンが盛り込まれていた。

明治期の「棄民」と比較すると、きちんと土地が用意されて開拓民が保護されていた事、しかしその一方で、それが原因で現地の中国人と軋轢が生まれたという事、この二つの点から歴史的な価値のあるドラマだと思った。

第一話はハツたちが集団結婚で千振に嫁いで行き、千振の集落が大きくなる話である。
開拓民は終戦までおよそ9年間をこの千振で暮らしたらしいが、本当の終戦間際に開拓民が臨時徴兵されるまで、千振は物も豊富で日本本土がそんなに悲惨な状況になっている事など、まったく知らなかったらしい。
それゆえ、満州軍がソ連侵攻のギリギリまで開拓民に避難の指示を出さず(開拓民が避難をするとソ連に撤収の動きを悟られるため)、もう目の前にソ連が来ているからすぐに避難しろと指示を出されても、土地を離れる事を嫌がって取り残されてしまった人も少なくなかったようだ。
臨時徴兵で出兵した家族を待つ人もいたのだろうが、いずれにしろ、満州からの引き揚げの混乱はこれらの要素が重なり合って起こった悲劇だった。

第二話は、千振からの命がけの引き揚げと、臨時徴兵で出兵した兵士たちのシベリア抑留の話である。
引き揚げでは何人もの人が死に、逃げ切れなくて子どもを現地の農民に預けたりもした。
いわゆる残留孤児である。
その他、看護婦をしていたハツの妹は留用という名の下、中国の内戦に従軍させられてしまうなど、家族がバラバラになってしまう。

第三話は方正の収容所から長春に移動し、そこで生き抜く話である。
大豆を盗んで納豆にして販売し、それで食いつないで帰国を待つ。
やがて日本への引き揚げ船が出る事になったが、離れ離れになった家族の消息は依然わからない。
家族を待って中国に残るという者も現れるが、説得によって全員で日本に帰国する事になる。
しかし帰国しても帰るところはない。
千振で開発団の団長だった吉崎の誘いで皆は栃木の那須に集まり、そこで開拓団を再結成する。

第四話は那須での開拓と、抑留や留用された日本人の帰国の話である。
那須は火山灰の台地で農耕には向かず、途中で牧畜に切り替えて成功するのだが、おそらく開拓にも相当の苦労があったと思われる。
ただドラマでは時間の関係か、那須での苦労はあまり描かれていない。
元々現地にいた農民との軋轢なんかも相当あったんじゃないかと思うが、小学校や病院のエピソードで若干触れる程度だった。
そもそもが満州からの引き揚げがメインなので、あまりそこは冗舌にしなかったのかもしれないが、もう少しきちんと描いても良かったんじゃないかと思う。

那須の千振という地名は、引き揚げた開拓者が「ここが我々の『千振』だ」と名付けたものである。
引き揚げるときには数々の屍を乗り越え、筆舌にしがたい哀しい思いもしたと思われるが、誰もが自分たちが作った千振を誇りに思っていた。

コンパクトにまとめられていたから面白かったのかもしれないが、大河ドラマにしても十分見応えあったんじゃないかとも思う。
主演の満島ひかり以下、出演者も本当に良かったしね。
主題歌の竹内まりやの「いのちの歌」も、心に沁みた。

オフィシャルサイトを調べてみたら、春に再構成されてBSと地上波総合で再放送されるらしい。
今度はお取り置き用に録画しようかとも思う。
by ksato1 | 2012-02-20 21:32 | 日記 | Comments(0)