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「八日目の蝉」

一言で言ってよく出来た映画だ。
上映時間は2時間半で決して短くないが、あっと言う間に時が過ぎた感じである。

冒頭は法廷シーンだ。
母恵津子(森口瑤子)が誘拐犯である希和子(永作博美)を罵倒し、希和子は謝罪ではなく感謝の辞を述べる。そこから、誘拐事件が起きた背景とその後、そして現代の時間軸が交互に展開する。
脚本、演出、演技のすべてが秀逸なため、この時間軸の行き来が非常にわかりやすい。
だから話に入っていきやすい。

井上真央が演じる主人公の恵理菜は、20歳になっていたが、人との接触を避けて暮らしている。
それは彼女が乳児の時に誘拐され4歳で実の両親の下に戻ったものの、馴染めずに育った事に由来している。

恵理菜を誘拐したのは希和子だ。
希和子は恵理菜の父と不倫をして妊娠するが、説得され堕胎する。
それだけでなく、妻の恵津子から夫と別れるように激しくなじられ、精神的に不安定となる。
その結果留守宅に侵入し、乳児であった恵理菜を連れ去ってしまう。
希和子は恵理菜を、自分の子どもにつける予定だった「薫」と言う名前で呼び、そこから二人の逃避行が始まるのだった。

子役もなかなかの巧さだが、現代の恵理菜を演じる井上真央が巧い。
今の朝の連ドラ「おひさま」でもいい感じだが、これまでは「花男」のイメージしかなかったので、正直こんなに演じられる女優だと思わなかった。

幼少時のトラウマにより、愛し方も愛され方もわからない恵理菜。
人と接する事を極力拒むのだが、塾のバイトで自分に対してきちんと向き合ってくれた岸田と不倫関係になってしまう。
そこへ、ジャーナリスト志望の千草が、恵理菜の誘拐事件を取材したいと近づいてくる。
この千草は小池栄子が演じているのだが、おどおど振りがやはり巧かった。
最初はなぜこんなにもおどおどしているのかと思ったが、それにはきちんと理由が設定されている。

物語の前半では、事件発生の経緯と両親の下に戻ってからも馴染めない恵理菜について語られるのだが、この部分は本当に観ていて胸が痛くなった。
なぜ娘がなついてくれないのかと半狂乱になる恵津子、そいて突然「母親」と名乗る女性に戸惑うしかない恵理菜。
父親はすべてが自分の責任であるとわかっているのだが、なすすべもなくオロオロするばかりである。
この時の森口瑤子の演技も迫力満点だ。
娘を妊娠中から現在まで20余年に渡り、彼女が常に絶望と隣り合わせだった事がひしひしと伝わってくるようだ。

後半は恵理菜と千草が、希和子と薫が逃避行した足跡を追う。
最初の数年は新興宗教に身を寄せるなどハラハラさせる時期もあるが、最後の数年は、小豆島で貧しくも楽しい母娘二人の生活を送る。
このシーンがとてもいい。
切ないシーンが続いただけに、母娘に訪れた束の間の幸せが心を癒してくれる。
すぐに終止符が打たれる事はわかっているが、風光明媚な映像を見ていると、田舎でゆったり暮らす二人のこの生活が、いつまでも続けばいいのにと願わずにはいられなかった。

もちろん日常良くある話ではないのだが、ストーリー展開にあまり無理がないので、こういう話が実際にあったとしても不思議ではないと思える。
それだけに、希和子、薫(恵理菜)、そして恵津子の悲しみが強く伝わってくる。

ラストシーンはちょっとあっけないようにも思えるが、私はこれでいいと思う。
完成度は非常に高い映画と言えるだろう。
おそらくどこかで何かの映画賞を、受賞するに違いない。


63.八日目の蝉


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by ksato1 | 2011-05-31 23:42 | 映画 | Comments(0)