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今回のギンレイの2本

今年に入ってのギンレイのラインナップは、個人的にはかなり酷いものである。
以前は3カ月に1回くらいは話題となった作品が組み込まれていたが、最近は数館で上映されるような小作品ばかりだ。
当然それらにも良い作品はあるのだが、今年に入ってからはめぼしい作品が見当たらない。
その中でも今回の「レオニー」はまだいい方か。

「レオニー」はイサム・ノグチの母親、レオニー・ギルモアを題材にした作品だ。
レオニーは女学校を卒業後、イサムの父であるヨネ・ノグチとニューヨークで知り合う。
ヨネは日露戦争を期に帰国してしまい、母親の下でイサムを生んだレオニーだが、イサムが3歳の時にヨネの熱望を受け日本へ渡る事にした。

当時の日本はまだ封建的な風習が残っており、外国人でしかも正妻でないレオニーは、社会的に認められない存在だった。
当初はヨネからの支援と英語の家庭教師で生計を立てていたが、やがて自分を大切にしないヨネから離れる事を決意する。
小泉八雲の未亡人セツと係わりを持ちしばらくそこで過すが、二人目の子どもアイリスを身ごもった時に、そこからも立ち去ることになる。
レオニーは海辺の田舎で教師をしながら、イサムとアイリスを育てていた。

イサムは10歳にして、母、妹と3人で暮らす家の設計を行った。
イサムの才能に注目したレオニーは、イサムを単身アメリカに留学させる。
紆余曲折のあるなか、レオニーとアイリスも渡米し、レオニーは二度と日本の地を踏む事はなかった。

ざっとストーリーをたどるとこんな感じになる。
なかなか波乱万丈な人生を送った人だが、映画としての描き込み方はイマイチだ。
イサムを身ごもった時、そして日本に来てからの、ヨネへの愛憎も淡泊だし、幼少期のイサムとの係わり合いもイマイチ描ききれていない。
ひょっとしたら資料となる文献がなかったためあいまいな感じになってしまったのかもしれないが、想像するにかなり感情の起伏が激しい人だったと思われるので、もっとヨネやイサムへ感情をぶつけていたのではないかと思われる。
冒頭はかなりのプライドの高さを見せているのだが、ストーリー全体としては「耐える人」というイメージになってしまっている。
中盤以降は、イサムへの愛情と期待がよく描けているんだけに残念。
アイリスの父親が誰だか想像させる手法も見事だった。

終盤、イサムがアメリカに渡ってからも、駆け足でやや舌足らずであったか。
彼の通う学校が破産で閉校になるくだりもよくわからなかったし、破産から復活した校長の家にやっかいになる理由もよくわからなかった。
その後レオニー自信が、どうしてアイリスと渡米したのかもよくわからない。

ただ、レオニー・ギルモアという女性の生涯を知るという意味では、非常に興味深い作品だった。
大河ドラマの題材になってもよさそうな人物だよね。


続いて「ルイーサ」
悲劇を題材として喜劇なのだが、なんだかシリアス過ぎてほとんど笑えなかった。

ルイーサは墓地の管理と有名女優のハウスキーパーをする老女だ。
夫と娘に先立たれ、誰とも係わらず愛猫と、規則正しく毎日を過ごしている。
ところがある日突然、墓地の仕事もハウスキーパーの仕事も解雇されてしまう。
そして愛猫も急死する。
突然の悲劇に見舞われるルイーサ。

ここからルイーサの無茶な行動が始まる。
初めて乗った地下鉄で若者が押し売りをしているのを見ると、自分もその押し売りを始める。
しかしまったく商売にならないと悟ると、今度は片足を失った物乞いのマネをして、松葉杖を持って物乞いを始める。
当然、先に物乞いをしていた片足のオラシオは、自分のマネをするルイーサに激怒する。
しかしこのオラシオとの出会いが、ルイーサの今までの考え方を変えていく事になる。

物語は、オラシオによって考え方を変えるルイーサの変化が軸となる。
押し売りは失敗、電気は止められる、もうやる事なす事裏目が続いてやけっぱちのルイーサの話を、親身になって聞いてくれるのはオラシオが初めてだった。
そもそもルイーサが他人を拒絶していた事が原因なのだが、オラシオとの出会いによって、ルイーサは他人との接し方を理解する。

ストーリーは教訓的な部分もあり悪くないのかもしれないが、ルイーサに降りかかる厄難がリアルすぎて、観ていて身につまされる。
職を失い愛猫を失うルイーサは、夫と娘の夢を見て何度も飛び起きる。
30年勤めても退職金ももらえず、挙句の果てには物乞いに身を落とす。
なんだか、今の日本の「無縁社会」を見ているようだったよ。

ルイーサのモチベーションは上がっても、仕事もなく家族のいない彼女がこの後の人生をハッピーに暮らせるかと言うと、なかなかそうはいかないだろうしね。
ちょっと悲観的な想像が過ぎているかもしれないけど、あまり後味のいい作品ではなかったかな。

こういう作品が続くと、ギンレイカードも次は更新しないかもしれないな・・・。

58.レオニー
59.ルイーサ
by ksato1 | 2011-05-10 22:24 | 映画 | Comments(0)