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原作は金原ひとみで監督は松井大悟だ。
前半は松井大悟完全復活かと思わせたが、後半はやや微妙な感じだった。

27歳で彼氏いない歴27年の由嘉里(杉咲花)は、アニメの「ミート・イズ・マイン」を「推す」腐女子だった。
このままではいけないと思って婚活を始め、合コンに参加するものの撃沈、酔いつぶれて歌舞伎町の道端で座り込んでいた。
そこでライ(南琴奈)に助けられる。
二人はライの部屋に行ったが、部屋はゴミ屋敷だった。
「こんな部屋にいると死んじゃいますよ」と由嘉里が言うと、ライは「自分はもうすぐ死ぬ」と言う。
そして由嘉里がライに、どうしたらそんなに綺麗になれるのかを尋ねると、整形で300万円くらいかければなれる、私は死ぬから300万円あげる、とも言った。
厭世観に満ち、本当にいつ死ぬかわからないライに対して、由嘉里は生きて欲しいと思う。
そして二人はルームシェアを始めた。

ライは歌舞伎町でキャバ嬢をしていたが、仕事もあまり真剣ではなかった。
ライにはホストの友達アサヒ(板垣李光人)がいて、由嘉里はアサヒとライに連れられて小さなバーを訪れる。
バーのマスター(渋川清彦)と常連の作家ユキ(蒼井優)は由嘉里を暖かく迎えてくれた。

由嘉里はライに背中を押され、マッチングアプリで婚活を行うが、うまく行かずに腐女子の推し活に没頭してしまう。
そんな状況でも、由嘉里はライの死にたい気持ち「死にたみ」を消そうと、バーのマスターやユキに話を聞きに行く。
しかしある日突然、ライは姿を消してしまった。

南琴奈は2025年7-9月期のドラマ「僕達はまだその星の校則を知らない」で、存在感のある演技をしていた。
そのためこの作品でも期待していたが、杉咲花、板垣李光人、渋川清彦、蒼井優などの実力者の間に入ると、やはり演技力の差がはっきり出てしまっていた。
杉咲花の腐女子役がすばらしかったのに加えて、ライの役は感情を押し殺した非常に難しい役だったため、演技力の差が出るのも無理はない。
しかし、前半はこの南琴奈のライが絶妙なアクセントになり、新鮮なストーリーになっていた。
この後ライと由嘉里がどうなるか、ドキドキしながら観る事ができた。
松井大悟ならではの独特の世界観で、松井大悟完全復活かと思わせた。
だが中盤でライが消息を絶ってから、そのドキドキ感がなくなってしまった。
ライがいない後半は、実力派の俳優陣による普通の出来の良い映画に見えてしまった。
もちろん、ストーリー全体が面白くない、という事ではない。
前半のドキドキ感に比べると、後半は予定調和でラストが見えてしまう展開になってしまった、という事である。
もし前半の南琴奈の演技が、松井大悟が巧く演じ過ぎないようにという指示をしたものであったのならば、それは非常に巧く機能していたと言っていいだろう。
しかしその反面、後半に反動が大きく出てしまい、それを収集できなかった、と言う印象だ。

少々ネタバレになってしまうが、杉咲花の演技は終始素晴らしかったので、最後に少しだけでもライを再登場させれば、もう少し違った印象になったのではないかと思う。


157.ミーツ・ザ・ワールド


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原作は未見だが大藪春彦新人賞を受賞しており、映画もなかなかのピカレスクな作品だった。

マモル(林裕太)は兄貴分のタクヤ(北村匠海)とともに歌舞伎町で、SNSで寂しい男を引っかけて戸籍を売買する闇ビジネスをしていた。
マモルは、タクヤが川に放り投げたシャツを拾いに行くほど、タクヤの事を慕っていた。
ある日タクヤとマモルは、闇ビジネスを取り仕切る半グレ集団「メディアグループ」の佐藤と食事をしていた。
その後一人で立ち去ろうとしたタクヤをマモルが尾行すると、タクヤが梶谷(綾野剛)と言う男から偽造の免許証を受け取っているのを目撃する。
マモルはタクヤにこの仕事から足を洗うのかと問い詰めるが、タクヤは何も言わない。
失望したマモルはタクヤに背を向けて立ち去った。

翌日、佐藤とグループの幹部であるジョージたちが突然マモルの元を訪れる。
佐藤がマモルのスマホを確認するが、マモルには何が起きているのかわからない。
そしてジョージに殴られて気を失ってしまう。
目を覚ますとマモルは手足を縛られており、タクヤがジョージのカネを持ち逃げしたと、佐藤が教えてくれた。
そしてタクヤの部屋に行って、部屋の中にあるテディベアのぬいぐるみを持ってくるよう命令された。
マモルが言われた通りタクヤの部屋に行くと、床には血の跡がべっとりと残っていた。
その時スマホにタクヤからのメールが入る。
タクヤからのメールにマモルが涙ぐんでいると佐藤が現れ、テディベアと金目の物をバッグに詰め始めた。
お前も好きな物を持って行っていいぞと佐藤に言われたマモルは、以前タクヤが川に放り込んだシャツと、冷蔵庫から冷凍のアジを取り出した。

タクヤは格闘技のジムで梶谷と親しくなっていた。
弟のためにカネが必要だったタクヤは、梶谷に誘われて闇ビジネスに手を染める。
しばらくすると、タクヤは佐藤からジョージのカネを狙う話を持ち掛けられる。
仲間の一人が敵対する池袋連合に寝返ったので、その男にすべてを背負わせるという筋書きだった。
タクヤはジョージの女の動きを探り、誰も部屋にいない時間を割り出す担当だったが、予想外に女が部屋に戻ってきしまった。
実行犯の男はなんとかカネを奪うが、話が違うと激怒する。
佐藤は実行犯にカネを渡して黙らせ、残りのカネをトランク倉庫に隠し、そのカギをテディベアのぬいぐるみに入れてタクヤに渡した。

作品は柿崎マモル、松本タクヤ、梶谷剣士の3人の視点で、3部に分かれて構成されている。
最初の柿崎マモルの章ははっきり言ってよくある半グレ集団の裏切り物語のように見えるが、松本タクヤ、梶谷剣士と章が進むごとに、3人のバックグラウンドが明らかになっていく。
この見せ方が非常に巧い。
少々ネタバレになってしまうが、タクヤは弟の治療費のために闇ビジネスの世界に入るが、弟は死んでしまう。
マモルをかわいがるのは、マモルに弟の影を重ねているからだ。
そして梶谷は直接マモルとの接点はないが、そんなタクヤの心情を知っている。
悪人になりきれない3人の葛藤と苦悩、もがき苦しむ姿の描き方が巧みだ。
個人的に、どんどん追い詰められて逃げ場がなくなる作品が好きという事もあるが、梶谷の章ではかなり感情移入してしまった。

そこそこ激しい暴力シーンがあるためレーディングもP12になっており、誰にでも勧められる作品ではないかもしれないが、闇社会で苦悩するストーリーが好きな人なら満足できると思う。


156.愚か者の身分


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エヴァンゲリオンシリーズ30周年の月イチ公開第2弾は「まご君」だ。
「シト新生」の時にも書いたが、旧劇場版を劇場で観るのは初めてだ。

「まご君」は、第25話とされている「Air」から始まる。
量産型エヴァ9体が2号機の上空を旋回するところまでは「シト新生」と重複していて、そこからオリジナルのストーリーがスタートする。

1997年の劇場公開当時は、観客はワクワクが止まらない状態で観始めたと思うが、たぶん途中から混乱したと思う。
私もその話を十分聞いてから数年後にDVDで鑑賞したのだが、それでもかなり混乱した。
「世界が壊れる」を表現したのだと思うが、あまりにも抽象的な表現で、ほとんどの観客が付いていけなかったと思う。
特に実写についてはまったく意味がわからなかった。

ただ「シン・エヴァ」公開後に観てみると、「シン・エヴァ」でも同じことを表現しているように思えた。
「まご君」の上映時間が87分に対し、「シン・エヴァ」は155分で倍近い。
製作費や製作期間の関係で「まご君」はこの形にしかできなかったのだろう。

なお、「シト新生」を見直したときに、プロトタイプの零号機がオレンジであったことを思い出した。
TV版ではほとんどが水色だったため、新劇場版シリーズで零号機がオレンジになった時に違和感を感じたが、その違和感の方が間違いだったのだ。
また、初号機がバルディエルをボコボコにするとき、そしてゼルエルを捕食するとき、新劇場版破の弐号機ビーストモードの動きに似ていると思った。

これらから、新劇場版シリーズは庵野秀明以下スタッフが、本当に表現したかったエヴァを作り直したのだと思った。
すでに公開が始まった新劇場版シリーズも楽しみである。


155.新世紀エヴァンゲリオン Air/まごころを、君に


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私は観ていないが、人気シリーズの「オースティン・パワーズ」を手掛けたジェイ・ローチが監督という事で期待して観に行ったが、正直日本人には合わない作品かな、と思った。

ロンドンの建築家のテオ(ベネディクト・カンバーバッチ)は、設計したマンションからバルコニーが排除されたことに腹を立て、事務所を辞めることにした。
その時偶然、ホテルのシェフだったアイヴィ(オリビア・コールマン)と出会い、アイヴィがアメリカに移住すると言うので二人でアメリカに渡ることにした。

二人の間には男女の双子が生まれ、テオは海の博物館を設計し、アイヴィは海辺に小さなレストランを開店していた。
しかし大きな台風に見舞われ、テオが設計した博物館が壊れてしまう。
テオは信頼を失い、仕事がなくなってしまった。
ちょうど同じとき、アイヴィの店に有名な美食家が来店し、SNSで店を絶賛した。
するとほとんど客が来なかった店が、突然人気店になってしまう。
アイヴィは店の切り盛りで忙しくなったため、テオが子供たちの面倒を見ることとなった。
しかしここから、二人の関係がゆがみ始める。

アイヴィは次々とチェーン店を開店、全米を飛び回って忙しい日々を送る。
一方テオは二人の子供を、州代表が目指せるほどのスポーツマンに鍛え上げる。
アイヴィはその事をあまり快く思っていないが、店の経営が忙しいために口出しはしなかった。
その間もテオは、建築家としての復活を目指していた。
しかしなかなかうまく行かない。
一方アイヴィの店はどんどん大きくなっていく。

やがてテオは、新しい自宅を設計する。
そこに大金をつぎ込むのだが、それらはすべてアイヴィが稼いだカネだ。
二人のギャップはどんどん大きくなり、やがてテオから離婚を切り出すが、二人は豪邸の所有権で争う事になる。

映画を観た後で調べたところ、1989年に公開された「ローズ家の戦争」と言う作品のリメイクらしい。
しかし夫婦で争う設定はベースだが、二人の職業などはまったく異なるようだ。

この作品に違和感を感じたのは映画全編が、いかにもアメリカナイズされた生活スタイルとアメリカンジョークで構成されているからだ。
アメリカナイズされた生活の方は、仕方がないと思う。
ただアメリカンジョークの方は、複数のカップルが集まる中でかなり下品なジョークが飛び交う。
ひょっとすると翻訳の意訳があるのかもしれないが、字幕を読む限りでは日本社会ではちょっとあり得ない会話が繰り広げられてかなり引く。

夫婦喧嘩の果てを描いたブラックコメディと言う部分では悪くないと思ったが、観終わった後に満足感はなかった。


154.ローズ家~崖っぷちの夫婦~


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この作品も、Netflixで配信開始前に劇場で期間限定公開された作品だ。
ギレルモ・デル・トロによるゴシックホラーの王道「フランケンシュタイン」である。

船が氷海に捕まり動けなくなったスウェーデンの北極探検隊は、氷原で爆音を聞く。
そして一人の男を救出した。
男を船に上げて船長たちが介抱していると、外が騒がしくなった。
銃で何度撃たれても倒れない大男が、探検隊員を襲っているのだ。
大男は、助けた男を渡せと言いながら船に乗ってくる。
探検隊はなんとか大男を追い払うが、助けた男が船長に、あの大男は殺すことはできない、今度大男が襲ってきたら、自分を氷原に置いて逃げるようにと告げた。

助けられた男はヴィクター・フランケンシュタイン、イギリス人の医師だった。
ヴィクターの父も医師で、ヴィクターは幼少の頃から父の後を継ぐべく厳しく医学を教え込まれていた。
だが弟のウィリアムが生まれたときに母は死亡してしまい、母を助けられなかった父を、ヴィクターは信用しなくなっていた。

時が流れ、父の死亡後にヴィクターはイギリス王立大学で教鞭を取り、そこで人類を死の恐怖から救うべく、死体を蘇生する研究を行っていた。
教授たちの前で蘇生について発表するものの、死体をつなぎ合わせたその異形から、その場にいた全員からバッシングされてしまう。
ヴィクターは大学を離れ、ウィリアムの婚約者の伯父で、武器商人のハーランダーの支援を受けて研究を続けた。
そしてヴィクターは、ついに人造人間を造りあげる。
しかし人造人間には知性がなく、唯一覚えた言葉は「ヴィクター」だけだった。

ウィリアムの婚約者のエリザベスは、哲学的な考えを持っていた。
その部分でヴィクターとエリザベスは共感する部分があり、ウィリアムがヴィクターの研究施設を離れると言った時も、自分だけ残ると言う。
しかし人造人間に関しては、ヴィクターとは考えが異なっていた。
ヴィクターは知性がない人造人間に苛立ちを覚えるが、エリザベスは人造人間を擁護しようとする。
すると人造人間は、少しずつ知性を習得し始めた。
しかしヴィクターは、人造人間を失敗作として焼却しようと考え、研究施設を爆破しようとする。

メアリー・シェリーの原作は読んだことがなく、これまで制作された映画も観たことがない。
それゆえ、この作品がどれだけ原作に忠実なのかもわからない。
ただ、デル・トロらしい作品であることは間違いない。
個人的にはデル・トロ作品は合う、合わないの差が激しく、「ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー」や「シェイプ・オブ・ウォーター」は面白いと思ったが、「パンズ・ラビリンス」、「パシフィック・リム」、「ピノッキオ」はまったく合わなかった。
ではこの作品はどちらかと言うと、面白いと思った。
正直、序盤の大学での発表や、死体をつなぎ合わせるシーンはかなりグロい。
だが、演出としてグロさを強調しているのではなく、当時の医学技術に基づいたきちんと整合性が取れたシーンとなっていた。
そのため、観ていても嫌悪感を感じることはなかった。

ストーリーは2部構成になっており、1部はヴィクターが人造人間を造るまで、2部は人造人間が研究施設から抜け出した後が描かれている。
ただ、2部については少々冗舌な感じがした。
そもそもが配信映画だから上映時間が長くてもいいのかもしれないが、2部をもう少し縮めて2時間程度にまとめれば、もっと作品にテンポが生まれたようにも思う。


153.フランケンシュタイン


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