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2017年評価の高かったギンレイの邦画2本

今回のギンレイは、昨年評価の高かった邦画を2本そろえてきた。

まず「幼な子われらに生まれ」。
田中信(浅野忠信)は離婚していて、離れて暮らしている沙織と言う小学6年生の娘がいた。
妻は大学の准教授で教授と再婚しており、取り決めで、信は沙織と年4回面会できることになっている。
一方、信自身も奈苗(田中麗奈)と再婚をしており、奈苗の連れ子の娘二人と一緒に暮らしていた。
一人は小学6年生で薫、もう一人は幼稚園に通う恵理子だった。
恵理子は両親が再婚していることをまだ知らず、信が実の父親だと思っている。

そして奈苗は信の子供を妊娠する。
奈苗は大喜びだが、信は迷っていた。
その迷いは、一緒に暮らしている妻、娘二人に対してではなく、沙織がどう思うか、であった。
だが沙織以前に、一緒に暮らす薫がショックを受けおかしくなってしまう。
薫は母親が信の子供を産めば、自分と妹は捨てられてしまうのではないかと心配していた。
さらに薫は初潮を迎え、精神は不安定になっていった。
その間、信はリストラで出向させられていたこともあり、信自体がどうしていいかわからず悩み始めてしまう。
薫は家を出たいと言う。
そして実の父親である沢田(宮藤官九郎)に会わせろと言った。

沢田は家庭に向かない男であった。
料理人であるが、子どもが嫌いで一緒に暮らしているときは奈苗にも暴力をふるっていた。
奈苗は薫が沢田に会いたがっているのは本心ではないというが、信は薫から「そっちは会っているのに」と言われ、返す言葉がなかった。
そこで、沢田に薫にあってくれるよう頼みに行く。
同じころ、信は元妻の友佳(寺島しのぶ)から夏は沙織と会わないでほしいと言われた。
友佳の再婚相手が病気で、9月まで持たないと言われたためだった。
だが沙織は信に会いに来て、今の父親がもうすぐ死ぬのがわかっていても悲しめないと言う。

信が、現在の妻の連れ子を別れた妻との子ども同じように愛そうとするものの、それがうまくできないところから物語は始まる。
そんなところに新しい子供ができて、さらに薫がおかしくなり、信はパニックになってしまう。
ストーリーとしては、わかりやすい。
しかし信の描き方が今一つだ。
作品が始まった段階で、信は今の家族に嫌気がさしていて、沙織と暮らしたいようにも見えるがそれがわかりづらい。
そもそも、信は子供が欲しいと言っていて、友佳はいらないと言っていたのに、なぜ離婚後に友佳が沙織の面倒をみているのかがわからない。
信と奈苗の出会いもあまり描かれていないので、結婚するときに信が薫と恵理子をどう思っていたのかもわからない。
その段階では覚悟を決めていたのか、あるいはその時点から娘二人を抱えることに違和感を感じていたのか。
友佳にはあれだけ子供が欲しいと言っていたのに、奈苗の連れ子二人をもてあまし、さらに新しくできた子供も歓迎しない。
信というキャラクターがブレブレになってしまっている。
ラスト近くでも、「自分の娘(沙織)と同じようには(二人の連れ子を)愛せない」みたいなことを言っている。
本音かもしれないが、非常に無責任な男に見えてしまった。
この信のブレ方が脚本の責任なのか、あるいは浅野忠信の演技力のせいなのかはよくわからない。
6年前にすでに恵理子が生まれているのにまだ幼稚園と言うのは時系列があっておらず、似たような細かい部分の粗もいくつか散見された。

いずれにしろ、個人的にはちょっと評価できない作品だった。

続いて「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」。
原作は最果タヒの詩集である。
未読なのでどのような詩集なのかわからないが、非常に好きな映画である。

美香(石橋静河)は東京で看護師をしながらガールズバーでも働いている。
実家の父親に仕送りをしなければならないからだ。
病院では若い母親が幼い子供を残して死んでいくこともある。
美香はそんな日常を達観していた。

慎二(池松壮亮)は生まれつき右目が見えないが、工事現場で日雇い労働をしている。
そして一度しゃべりだすと相手の事などお構いなしに喋り捲る、ある種のコミュニケーション障害である。
ちょっと年上の智之(松田龍平)、中年の岩下(田中哲司)、フィリピンから来たアンドレスと仲良くしていた。
岩下は年のせいで仕事がキツくなり、アンドレスは研修生で正社員ではあるが、ほとんど騙されて日本に来たようなものだった。
4人でたまに飲みに行くこともあり、ある晩遊びに行ったガールズバーに美香がいた。
智之は美香を気に入りデートをするのだが、その直後に仕事中に倒れて死んでしまう。
智之の葬式の帰り道、慎二は美香に「俺にできることがあればなんでも言ってくれ」と言うが、美香は「死ねばいいのに」と答える。

夢を追わずに達観した若者たちが、本音で生きる映画である。
ストーリー自体はあってないようなものだ。
底辺とまでは言わないが、決して恵まれているとは言えない人々が、現実を受け入れて日々を過ごしている。
その状況を、最果タヒの心に響く繊細な詩を引用して、印象深く表現している。
美香の「死ねばいいのに」と言うセリフは、決して慎二を嫌って言っているわけではない。
その後美香は、「死ねといえば簡単に孤独を手に入れられた」と呟いている。
その他にも、「愛って言うと口の中に血の味がしない? 愛はたくさんの命を奪っているから」と言うセリフもある。
光るナイフのような最果タヒの詩を使って、監督の石井裕也が見事に作品として紡ぎあげているのだ。

石橋静河は天性の演技の巧さなのか、あるいは石井裕也の演出が巧みなのかはよくわからないが、いずれにしろかなり光る演技を見せていた。
慎二と言う難しいキャラを池松壮亮も素晴らしかった。
深夜から早朝、昼、夕方、夜と、東京の原風景の描き方も見事の一言。
感性に訴えかける映画だけに、好き嫌いは大きく分かれる作品だと思う。
私個人としては、非常に引き込まれた映画だった。


42.幼な子われらに生まれ
43.映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ


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by ksato1 | 2018-03-22 22:06 | 映画 | Comments(0)