「彼らが本気で編むときは、」

ゲイのカップルが子どもを引き取るというシチュエーションなので、「チョコレートドーナツ」のように、自分たちの立場が悪くなる事を覚悟の上で、子どもを護ろうとする作品を想像していたが、そうではなく性同一障害に向き合う大人の内面に焦点を当てた作品であった。
キャスティングを含めて、脚本、演出とも、監督の荻上直子の力量を存分に見せつけられた作品である。

トモ(柿原りんか)は母親(ミムラ)と二人暮らしの小学生だが、ある日母親が書き置きを残していなくなってしまう。
こういう事が初めてではなかったため、トモは今回も母の弟、叔父であるマキオ(桐谷健太)の所に行く。
トモが数年ぶりにマキオの所に行くと、そこには同居人が一緒に暮らしていた。
その同居人が、性同一障害で男性から女性に性転換したリンコ(生田斗真)であった。
最初は戸惑うトモだが、やがて自分に心から愛情を向けてくれるリンコを慕うようになる。

トモにはクラスメートの男の友人がいた。
この友人のカイは裕福な家の子どもで、バイオリンを習っており音楽大付属中学の受験を目指していた。
そして実はこのカイも、性同一障害の傾向があり男の先輩に恋心を抱いていたのだった。
だがカイの母(小池栄子)は厳格な性格で、カイの気持ちを理解するどころか、トモがリンコと暮らしている事をよく思わず、リンコとは接しない方がいいと言う。
リンコを悪く言われたトモは、カイの母親に洗剤をぶちまけ大騒ぎになる。

すべての登場人物が、かなり現実に近い目線で行動をしている。
唯一、現実ではあまり見ない存在なのはリンコであるが、そのリンコも現在の暮らしになった過程が丁寧に解説されているため、ほとんど違和感を感じない。
特に、リンコが中学生の時に、リンコの母親(田中美佐子)の深い愛情によって救われるシーンが非常によく描けているため、現在のリンコの性格がどのように形成されたかという点に、説得力が生まれている。
最近はかなりダイバーシティという言葉も浸透しているが、それでも実際に性同一障害で女性になった人間が自分の目の前にいたら、やはりかなり違和感を感じてしまうだろう。
この映画はその違和感と、それを乗り越える過程の表現が巧く、ストーリー全体がとてもスムーズに進行する。

トモが若干達観し過ぎかなと言う気もするが、イマドキの小学生はこんな感じなのではないかな、とも思える。
トモがカイのお見舞いをした時に「いやー、それは死にたくなるわ」と言うが、いかにもイマドの小学生っぽい会話だなと思った。

物語の中心はリンコだが、トモがコンビニのおにぎりを嫌いだったり、トモの母がニット製品を嫌いだったりなど、人間の細かい心の機微の押さえ方も巧い。
児童相談所職員役の江口のりこが視察に来た時の表情、マキオがトモを引き取りたいと言った時のトモの母親の取りみだしっぷりなども、とてもリアルなシーンになっていた。

荻上作品は「かもめ食堂」「めがね」「トイレット」の3作品しか観ていないが、私が観た中ではこの作品が、現在までの荻上直子の最高傑作と言っていいだろう。

出来得るならどこかの映画賞で、この作品の生田斗真を主演女優賞で表彰してもらいたいと思う。
今後はそう言う事が普通にあっても、いいんじゃないかと思う。


28.彼らが本気で編むときは、



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by ksato1 | 2017-03-02 23:04 | 映画 | Comments(0)