「何者」

原作は朝井リョウの直木賞作品。
予告編を観た限りでは、遠い昔の「就職戦線異状なし」のような学生奮闘モノかと思っていたが、そんなレベルの作品ではなかった。
そして映画を観ただけだが、原作がなぜ直木賞を獲ったのかもなんとなくわかったような気がした。

二宮拓人(佐藤健)は御山大学の演劇サークルに所属していたが、就活のためすでに引退をしていた。
同じ大学でルームメイトの神谷光太郎(菅田将暉)も音楽サークルのバンドで引退公演をし、就活に入る事になった。
その光太郎のラストライブで、拓人はかつての光太郎の恋人で、アメリカに留学していた田名部瑞月(有村架純)と再会する。

拓人は入学当初から瑞月に思いを寄せていたのだが、それを言い出す前に二人は付き合い始めてしまった。
元々、自分をも客観的に観察するクールな性格の拓人は、当然二人に感づかれる様な素振りを見せなかった。
拓人はサークルに没頭し、同期の烏丸ギンジと一緒に脚本を書き、数々の名作を生み出していく。
だが、演劇でさらなる高みを目指そうとするギンジは大学のサークルを辞め、自分で劇団を立ち上げた。
毎月公演を実施するギンジに対しても、拓人は冷ややかな目線を送っていた。

ある日瑞月が拓人と光太郎の部屋に、小早川里香(二階堂ふみ)を連れてくる。
里香と瑞月は留学のセミナーで知り合ったのだが、偶然拓人と光太郎の真上の部屋に住んでいた。
社交的な里香は、拓人と光太郎も就活をしている事を知ると、自分の部屋を就活本部にしないかと提案、3人はそれを受け入れた。
4人が部屋で就活の話をしていると、宮本隆良(岡田将生)が帰ってきた。
隆良は付き合ったばかりの里香と、3週間前からこの部屋で同棲していると言う。
二人はまるで映画やドラマのようにカッコよく暮らし、かつ隆良は自分で文章を書きイベントのプロデュースなどもしており、企業に属しては自分のやりたい表現はできないと、就職を否定していた。
しかし拓人と瑞月は、就職説明会の会場で隆良を目撃してしまう。

4人のうちで最初に内定が出たのは瑞月だった。
だが瑞月の職種は、最初に希望をしていた総合職ではく転勤のないエリア限定職であった。
瑞月は家庭環境により、希望を変更していたのだ。
その次に決まったのは光太郎だった。
光太郎は出版社を希望していたが、その理由を拓人にも瑞月にも打ち明けていなかった。
一方、積極的に就活を行っていた拓人と里香には、なかなか内定が出ない。
そしてそんな拓人と里香は、お互いが焦っている事を偶然のきっかけで知ってしまう。
見た目だけ取り繕っているものの、友だちの内定を喜んでいないと互いにののしり合う二人。
その状況下に隆良が帰ってくる。
二人が言い争っていた事など知らない隆良は、意図せずに拓人が一番気にしている一言を突き付けてしまう。

原作が直木賞を獲った時、そしてすでに書いたが映画の予告編を観た段階での印象は、よくある青春群像劇かと思っていた。
だが内容はまったく異なる。
現代社会における20才前後の若者の、内面と外面を鋭くえぐった作品だ。

現在の日本では年齢にかかわらず多くの人々が、ツイッターやInstgram、FacebookなどのSNSを使って自分の情報を発信し続けている。
特に若者はその傾向が顕著で、SNSを使用している半面、そのつながりを異常に気に掛けたりもしている。
悦に入った「自分リスペクト」の投稿などは、冷ややかに酷評される事も少なくない。
拓人は、SNSで「ボク、頑張ってます」アピールを続けるギンジと隆良を、同じ「サムい奴ら」と分析していた。
だがそんな拓人を演劇サークルの先輩(山田孝之)が逆に分析し、「隆良はギンジに似ていない、ギンジはお前に似ているよ」と言う。
しかし拓人はその言葉を素直に受け入れられない。
それは若さゆえの「他人にカッコよく見られたい」意識が強く働いているためであり、里香や隆良がカッコよく暮らそうとしているのも、拓人同様に自分の姿を受け入れられていないからかもしれない。
だが、やはり自分を受け入れる事が一番できていないのは拓人だ。
彼は傷つく事を恐れて仮面を被っているのだ。

劇中に演劇を取り入れているが、これはおそらく原作の良さを引き出すために監督が考えた演出だろう。
三浦大輔という人はまったく知らなかったが、劇団を主宰しており映像よりもそちらが本職のようだ。
だが映像に関しても、この映画で非凡な才能を発揮している。
正直、そういう演劇を取り入れた展開を含めても、ラスト20分まではややありきたりの既視感があった。
自分の正直な気持ちをぶつけあって深く理解する、よくある青春劇かと思っていた。
だがクライマックスの20分で、その考えを根底から吹っ飛ばされた。
里香に糾弾された後、隆良の一言で拓人のすべてがさらけ出された時、映画の完成度だけではなく原作の魅力までもがスクリーンを通して伝わってきた。
もちろんそれは、メインとなる5人+山田孝之の卓越した演技力があっての事なのだが、その演技力をきっちりすべて引き出したのも、おそらく監督の力量なのだろう。
上映時間は97分と短めだが、それもつまらない状況描写を入れてダラダラしないと言う監督の考えではないだろうか。

映画を観た後、これほど原作を読んでみたいと思った作品は、他には「告白」くらいしかない。
この監督がこの後映画を撮るかどうかわからないが、もしメガホンを取るのであれば、次回作以降も必ずチェックしなければならない。
機会があったら必ず観ておきたい映画だ。


78.何者


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by ksato1 | 2016-11-01 23:57 | 映画 | Comments(0)