「レッドタートル ある島の物語」

制作スタッフがほぼいなくなってしまったと言うジブリの最新作である。
この作品もジブリ作品と言ってもフランスの制作会社との共同制作で、かつ絵柄を見る限りでは我々が今まで馴れ親しんできたジブリ作品とはかなり様相が異なる。
おそらくは、制作には日本人はほとんど参加していないのではないだろうか。

嵐の中、小舟に乗った男は海に放り出された。
気付くと彼は小さな島にたどり着いていた。
島の中央には真水が湧き、南の島特有の果物もある。
彼はそれを口にして、水辺の竹林から倒れた竹や樹木を運び出し、脱出するための筏を作った。

小さな筏を作った男は、すぐさま海に漕ぎだす。
しかししばらく行ったところで海中からの衝撃を受け、筏はバラバラになってしまう。
島に戻った男は、懲りずに大きな筏を作って漕ぎだす。
しかしその筏も前回と同じようにバラバラになってしまう。
男は諦めず、もっともっと大きな筏で漕ぎだす。
すると今度は、筏の後ろに大きなアカウミガメがいることを発見する。
アカウミガメはこれまでと同じように海中から筏を突き上げ、男はそれを阻止しようとするが、結局はバラバラにされてしまった。

男はまたまた島に戻り、もっと頑丈な筏を作り始める。
すると海中からアカウミガメが砂浜に上がって来た。
男は怒りでアカウミガメをひっくり返してその上に乗り、動けないように固定する。
そのまま一昼夜以上放置されたアカウミガメは、やがて動かなくなってしまった。
男は慌ててカメに水を掛けて介抱するが、時すでに遅かった。

ここまででストーリーの1/3程度である。
冒頭からファンタジー色が強いのだが、ここから一気に男の数奇な人生がファンタジックに展開する。
とは言え、宮崎駿が制作したファンタジー作品を想像すると、完全に肩透かしを食らってしまう。
まず、明るい原色やパステル色が中心だった宮崎作品に比べ、この作品はぼんやりした中間色ばかりである。
描画も詳細まで細かく描きこむ宮崎駿に比べ、この監督はかなり線数が少ない。
「星の王子様」や「タンタンの冒険」に近しいイメージだ。
画面からは非常に淡泊な印象を受ける。

セリフがなく、演出もギリギリまで削ぎ落されているため、物語は淡々と流れて行くように見える。
だがストーリーが進むほど、非常に深い人生観を表現していることがわかる。
出会いがあり災害に見舞われ、そして別れも経験する。
その彼の人生は、幸せであると言えるのか。

たぶん、現段階では日本では高い評価にはなり得ないだろう。
なぜなら、ジブリ作品を期待してこの映画を観に来る人は20、30代の人が多いと思うし、20代、30代の人生経験でこの映画の主題を理解するのはかなり難しいからだ。
映像も淡泊でストーリーもよくわからない、そんな映画が評価される訳はない。
「静かな映画」と思われるだけだろう。
しかし時を経て「ジブリ作品」と言うレッテルが剥がれ、この作品単体として評価され始めると、じわじわと評価が上がると思う。
この映画は見れば見るほど、幸せな人生とは何なのかと考えさせられるからだ。

ややネタバレになってしまうのだが、男は途中から、島を脱出するという意思を捨てる。
それはすなわち、男は島に残ることが幸せだと考えるからだ。
だが観客がすべて、男が島に残ることが、男にとって幸せとは考えないと思う。
今が島を出るタイミングではないか、と思わせるシーンもあるからだ。
男はなぜ、島に残るのか。
セリフがなくともストーリーはほぼわかるが、それでも想像力で補わなければならないシーンもある。
そこも含めて、これまでにない非常に奥が深い作品である。

50歳を超えたあたりで、自分の人生と照らし合わながら観るのが丁度いい作品かもしれない。



75.レッドタートル ある島の物語


※こんな本書いてみました。
よろしかったらご購読ください



●放射能ヒステリックビジネス

http://www.amazon.co.jp/%E6%94%BE%E5%B0%84%E8%83%BD%E3%83%92%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%82%B9-%E4%BD%90%E8%97%A4%E7%9D%A3%E8%AA%8C-ebook/dp/B00DFZ4IR8/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1404017694&sr=8-1&keywords=%E6%94%BE%E5%B0%84%E8%83%BD%E3%83%92%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%82%B9
[PR]
by ksato1 | 2016-10-15 05:15 | 映画 | Comments(0)