「64(ロクヨン)」前編、後編

横山秀夫作品は映画で「半落ち」と「クライマーズ・ハイ」を観たが、どちらも「なんじゃこりゃ」作品だった。
「半落ち」は梶(寺尾聰)がなぜそこまで頑なに黙秘を貫いたのかわからず、適当にウソをつけばそれでおわりじゃん、と思った。
「クライマーズ・ハイ」はもっと酷く、地方紙記者の全国紙に対する僻み根性、負け犬根性が延々と語られているだけだった。

原作は面白いのかもしれないが、映像化するとガクンと面白味が下がってしまう作品はいくつもある。
この横山秀夫という人はその見本のような人かと思い、さらに「マークスの山」以降「このミステリーがすごい!」作品は逆にダメだという私の中に法則ができていた事もあり、この作品も最初は軽視していた。
ところが、本屋大賞でも第2位に入った。
基本的に私の中では、本屋大賞はかなり信頼が置ける。
と言う事で、まずTVドラマ版のダイジェストを観た。
ミステリーのキモとなる部分は非常に面白かったが、地方紙記者の横暴が目に余り、この作者はこの部分にどうしてもこだわらずにいられないようで、そこがどうしても好きになれなかった。

なので最初は映画も観に行くつもりはなかったのだが、後編が封切られた後、ラストが原作と異なると聞いて、慌てて観に行くことにした。

昭和64年の正月、群馬県で少女誘拐事件が起きた。
警察は犯人からの連絡を待ち必死に操作するものの、身代金は犯人の手に渡り、数日後に少女は廃車のトランクから遺体として発見された。
それから14年が経ち時効まで残り1年となっても、事件は「ロクヨン」と呼ばれ被害者はもとより捜査関係者もみな少なからず過去を引きずっていた。

当時「ロクヨン」の捜査を担当していた三上(佐藤浩市)は、刑事課から広報課に異動したばかりだった。
広報官として記者クラブの相手をしていたが、記者クラブとの間には大きな溝ができていた。
そんな中、妊婦がひき逃げ事故を起こしてしまう。
三上は上からの指示で、妊娠後期という事を考慮して加害者の実名を発表しなかった。
その事に怒った記者クラブは、県警本部長宛に抗議文を出すといきり立つ。
さらに、警察庁長官が群馬県を視察し、その中で「ロクヨン」の被害者を訪問すると言う話が持ち上がった。
警察庁長官の視察でマスコミに取り上げてもらい、時効までの間に情報を集め事件解決を図ろうと言う目論見だった。
しかし実際には、それを理由に警察庁が群馬県警刑事部長のポストに、東京から人材を派遣する事が目的であった。
本部長(椎名桔平)、警務部長(滝藤賢一)は中央からの派遣人事で、そもそも警務部と刑事部は仲が悪い。
その事もあり、かつて「ロクヨン」捜査時の班長で今は刑事一課長の松岡(三浦友和)、そして現刑事部長の荒木田(奥田瑛二)は、刑事部長のポストを護るために警察庁長官の視察を阻止しようとする。

一方広報官である三上は、ひき逃げ事件の匿名を盾に取り警察庁長官視察の取材をボイコットすると言う記者クラブと闘っていた。
その上、「ロクヨン」の被害者である雨宮(永瀬正敏)にも、警察庁長官の慰問について説明を行う。
だが雨宮は慰問を拒否する。
14年も犯人を逮捕できない警察を信頼していないのは当然だ。
粘り強く説得する三上だが、雨宮は突然慰問を承諾した。
少しホッとする三上だが、雨宮を説得する材料を探す中で、当時自分が知らされていなかった「何か」があることに気付く。
三上は調べを続けて、その「何か」が「幸田メモ」と呼ばれ、歴代刑事部長の申し送り事項になっていた事も突きとめた。

記者クラブは相変わらず頑なであったが、三上は自己責任の上で、ひき逃げ事件の加害者の実名を公表する事にした。
その被害者は県の公安委員長の娘である事も告げる。
記者たちは隠ぺいだと騒ぎ始めたが、匿名にしたのはあくまでも妊娠後期である事を考慮した上である、もし公安委員長の娘でなくとも匿名にするつもりだった、そして事故で錯乱状態にある加害者の実名報道するかどうかは、記者たち判断に任せると告げた。
すべて本音で語った三上に対し、記者クラブは信頼を寄せ、警察庁長官の取材も行うと約束した。
これで警察庁長官視察日までにすべて丸く収まりそうになったのだが、県内で誘拐事件が発生した。

警務部以外はすべて捜査本部に終結するが、警務部に所属する広報課の所属員は中に入れてもらえない。
三上は捜査一課の刑事に情報を出せと迫るが、被害者の名前すら公表されなかった。
せっかく記者クラブの信頼を得られたが、これですべてが元に戻ってしまった。
さらに、東京から全国紙の記者がやってきて、情報を出せと三上たちに迫る。
刑事部長のポストを護るための、刑事部の狂言ではないかと疑った三上は、松岡を捕まえて被害者の名前を聞きだす。
やっと少しずつ情報が出てくるのだが、犯人の要求はすべて「ロクヨン」事件と関連していた。

原作と異なるラストも、なかなか良かったと思う。
すべてが片付いた後のシーンはやや冗舌なような気もしたが、完全な結末を描くのは悪くないと思う。
だが正直、映画としてはやや粗っぽく、完成度はそれほど高くないと思う。
例えば、身代金をもった雨宮が車で犯人の指定場所に行くのだが、ほとんど車が走っていない道路を雨宮の車、黒塗りの警察車両が一列になって走っている。
普通に考えれば犯人にバレバレだ。
また、天皇崩御、元号変更のニュースに隠れたため、事件の情報があまり集まらなかった、という設定であるにも関わらず、それを表現しているシーンが少ない。
さらに、この映画のキモとなる「電話」についても、取り上げ方が中途半端。
三上の訪問時に雨宮が電話帳を片付けるシーンはあるものの、時間経過を表すシーンで公衆電話を入れるなど、もっと電話をフィーチャーした方が演出として効果があったと思う。

また個人的にはどうしても、新聞記者の描き方が気に入らない。
自分達の使命を忘れ、権利ばかりを声高に主張しており、因縁を付ける総会屋のように見えた。
もし本当の新聞記者がみなこういう人たちばかりであるのなら、この世に新聞なんて存在しなくともいいんじゃないかとも思った。

だがそんな中、役者の演技は素晴らしかった。
メインの役者陣はもちろんの事、むかつく新聞記者たちの演技も迫真に迫っていた。
ひょっとしたら、役者の迫真の演技に圧倒されて、制作者が細かい演出に気が回らなかったのかもしれない。
役者の演技が素晴らしいだけに、もうちょっと細かい部分に気を配ったら本当の最高傑作品になったかもしれないが、少なくともこれまでの横山秀夫作品の中では段違いに面白い作品であった事は間違いない。


46.64(ロクヨン)前編
47.64(ロクヨン)後編


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by ksato1 | 2016-06-19 12:55 | 映画 | Comments(0)