「ヴィヨンの妻」
原作は太宰治。
太宰作品に傾倒しているわけではないが、いかにも太宰作品らしい文学的な映画になっていた。
時代は戦争直後、佐知(松たか子)は詩人の大谷穣治(浅野忠信)と東京郊外で暮らしていた。
大谷は放蕩の限りを尽くし、年端の行かぬ子どもがいるものの、何日も家を空けて帰宅しない事もよくあった。
とある年末、大谷が家に駆け込んでくると、後から二人の男女が追いかけてきた。
二人は大谷が通う居酒屋を経営する夫婦で、大谷が店から5000円を盗んだと言う。
5000円を返せば警察沙汰にはしないと夫婦は言うが、大谷はシラを切りとおしてどこかに逃げてしまった。
困った佐知は、大谷がカネを持ってくるまで自分が人質となって店で働くと言う。
大谷はなんとかクラブ経営をしている女に無心をしてカネを用立てて、事なきを得る。
だが佐知は、そのまま店を手伝ってこれまでの大谷の飲み代を返済すると言いだした。
器量良しの佐知は看板娘となり、店は繁盛しだした。
そうなると、佐知目当ての客も増える。
工場で働く青年岡田(妻夫木聡)もその一人だった。
だが、岡田の事を知り大谷は嫉妬に狂う。
また、かつて佐知が好意を寄せていた辻(堤真一)も店に来るようになった。
辻は現在こそ弁護士となっているが、司法試験浪人中は貧乏だった。
そんな辻に好意を寄せた佐知は、辻のために自分が働いていた店のマフラーを万引きしてしまう。
佐知は交番にひったてられるのだが、どうしていいかわからない辻はその場を立ち去る。
だが、そんな佐知を救ったのが大谷だった。
大谷はマフラーの金額の倍を支払い、交番から佐知の身元を引き受ける。
二人が夫婦になったのは、そんなエピソードが理由だった。
とある深夜、大谷に引きずられて岡田が家にやってくる。
岡田は大谷と一緒に寝ていたが、深夜に起きだして佐知に自分の想いを告げてしまう。
しかしそれを、大谷が聞いていた。
大谷はショックを受けて出奔、バーの女で大谷の愛人(広末涼子)と心中を図る。
だが大谷は死にきれず、殺人罪で警察に捕まってしまった。
大谷は太宰自身と言われている。
太宰には詳しくない私でも、作品を見ていてそれがひしひしと伝わってくる。
キャスティング、脚本、演技で、戦後の昭和文学を見事に映像化している。
ともすれば20世紀の昼メロ的なドロドロの愛憎劇になりそうな題材ではあるが、佐知に文学的なセリフを多く喋らせることにより格調が高められていた。
松たか子がこの作品で、日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞を受賞したのも頷ける。
翌年「告白」で最優秀主演女優賞を逃した時には納得が行かなかったが、前年この演技を見せていただけに、「告白」でどれだけいい演技をしても2年連続受賞には自らかなりハードルを上げてしまっていたと言えるだろう。
奇しくもこの作品に出演していた広末涼子が、「ゼロの焦点」でかなりいい演技を見せ最優秀主演女優賞を争ったが、やはり松たか子の佐知の方が上だったと言わざるを得ない。
広末涼子は大谷の愛人で体当たりな演技を見せていただけに、自ら松たか子をアシストしてしまったと言えるかもしれない。
ただ最優秀脚本賞はまだしも、最優秀作品賞と最優秀監督賞を逃している部分はいただけない。
最優秀作品賞の「沈まぬ太陽」と最優秀監督賞の木村大作(劒岳 点の記)よりも、こちらの作品と監督の方がはるかに上だったと個人的には思う。
131.ヴィヨンの妻
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