「天空の蜂」

東野圭吾作品とは言え、原作が書かれたのは20年前、しかもテロリストが原発を占拠すると言うストーリー。
かなり語り尽くされた設定だし、さらに監督が堤幸彦。
堤幸彦は「20世紀少年」や「SPEC」など、大作の風呂敷を広げ過ぎて、最後はグズグズにしてしまった事もあったので、正直あまり期待しないで観に行った。
しかし、東日本大震災を経験した現代日本に置ける社会問題を、かなり深くかつ的確にえぐる作品であった。

1995年、錦重工業で大型ヘリコプター「ビッグB」の開発を行っていた湯原(江口洋介)は、家族とともに完成発表会のため工場に来ていた。
湯原は技術者で、家族を顧みずこの「ビッグB」の開発に心血注いだ結果、妻との間には大きな溝ができてしまっていた。
湯原はその事を強く感じており、家族との距離を縮めるために発表会にも参加をしていたのだが、会場の待合室でも妻と揉め、家族との離別を決意しようとしていた。
しかし、一人息子の高彦は、湯原の事を嫌っていなかった。
だが、湯原が家族との離別を同僚に話しているのを偶然聞いてしまい、ショックを受けて湯原の同僚の子どもと一緒に工場内を彷徨い始める。
そして、同僚の息子が止めるのを聞かずに「ビッグB」に乗りこんでしまった。
折しも、「ビッグB」はテロリストの遠隔操作で飛び立つ寸前だった。
同僚の息子はなんとか救い出すものの、高彦を乗せたまま「ビッグB」は浮上、そのまま福井県にある高速増殖炉「新陽」を目指して飛び立った。

テロリストの要求は、日本全国の原子力発電施設の完全停止、時間の猶予は「ビッグB」の燃料が尽きるまでの8時間。
もし先に「新陽」を停止すれば、その時点で「ビッグB」のエンジンを停止して落下すると告げてきた。

「新陽」のある福井県警、錦重工業の工場のある愛知県警ともすぐに犯人の捜査を始める。
その間、「ビッグB」に高彦が乗っていることを告げると、テロリストは救出を許可すると告げてきた。
しかしその条件は、まず全国の原発を緊急停止し、救出方法を公に発表する事だった。
政府はこの条件を飲み、高彦の救出作戦を始める。
並行して警察による犯人捜査は続けられるのだが、その過程でテロリスト犯が複数いて、彼らがなぜ犯行に及んだのかが少しずつ明らかになるのだった。

原作をきちんと反映しているのだと思うが、まずこの映画で評価できる点は、原子力発電についてきちんと科学的に解説していることである。
何が危険で何が危険ではないか、素人にもわかりやすいように解説されており、しかもほぼ事実誤認や間違いがない。
その上で危機を作り上げているから説得力がある。

さらに、テロリスト犯の想いがアツい。
こういう作品の場合、子どもを救いたいという親の立場の湯原の方が想いがアツく、犯人は冷静である事が多い。
そして犯行に及ぶまでの思考と行動についても、自分よがりで薄っぺらい事が多い。
だがこの作品では、犯人は冷静に行動するものの、犯行に及ぶまでの過程がアツ過ぎるほどアツい。
自分が信じていたものが根底から崩され、そこから何を思うか、どんな行動を起こしたのか、すべて整合性が取れているためストーリー全体に一本太い芯ができている。
そしてそれが、最後までブレない。

そして特筆すべきは、やはり原発の開発責任者である三島役の本木雅弘の熱演だ。
「俺たちが売っているのは原発じゃない、技術だ!」と言うセリフが途中にあるのだが、このセリフが後半にとても効いてくる。
それ以外も、前半部の伏線がすべて後半に機能しているため、映画としての完成度も非常に高い。
ズバリ言って、堤幸彦の代表作品と言ってもいいだろう。

強引に粗を探すとすれば、ストーリーのキーとなる赤嶺(仲間由紀恵)の掘り下げ方がちょっと甘かったか。
なぜ、事件の日に出社していたのか、出社していなくとも自宅にいてもよかったような気がする。
また、雑賀(綾野剛)のバックグラウンドももう少し掘り下げが必要だったように思う。
しかし上映時間が138分である事を考えると、ギリギリ最小限で必要最低限をまとめているとも言えるだろう。

高彦を救出しようとする自衛隊員、決して無責任に持ち場を離れようとしない原発の職員など、それぞれが自分の仕事に対する矜持を持っている部分も、観ていて感動した。
責任と誇りを持って仕事をすると言う意味では、中高生にもぜひ観てもらいたい作品だ。
原発反対、賛成をその場の感情で安易に訴えるのではなく、誰もが日常から責任を持ってこの問題を考えることが肝要であることを、この映画はしっかりと訴えかけている。


94.天空の蜂

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by ksato1 | 2015-09-13 13:02 | 映画 | Comments(0)