「海街diary」

今年前半一番期待していた作品だ。
原作は少女漫画と言う事もあり内容はまったく知らなかったが、是枝裕和が今をときめく4人の女優で映画を撮ると聞けば、期待しない訳にはいかない。
そして、期待通りの作品だった。

幸(綾瀬はるか)、佳乃(長澤まさみ)、千佳(夏帆)の3姉妹は、鎌倉の古い家で暮らしていた。
ある日、家族を捨てて出て行った父親の訃報が入る。
3人が父の葬儀に参加すると、そこには腹違いの妹浅野すず(広瀬すず)がいた。
すずの母も既に亡くなっており、すずはその後父が結婚した3人目の女性と、彼女の連れ子の弟と暮らしていた。
姉妹はすずに見送られて鎌倉に戻るが、その時に幸がすずに一緒に暮らさないかと提案する。

予告編を見た時は、母が3姉妹から父を奪った事を気に病み、すずがなかなか家族になじめないという話かと思った。
予告編では、3姉妹の大叔母(樹木希林)の「妹は妹でもあの子はあなたたちの父親を奪った人の娘なのよ」と言うセリフから、千佳の「私小さかったからお父さんの事良く覚えてないんだよね、今度教えてね」となり、すずの「ごめんさい、他の人の旦那さん奪っちゃうなんて、お母さん良くないよね」とつながり、最後は幸の「すずはここにいていいんだよ」となるのだが、実際の劇中ではこのセリフは順番が少し異なる。

とても賢くとても素直でとても真面目なすずは、誰からも愛され鎌倉での新しい生活にもすぐになじむ。
そして彼女を受け入れる3姉妹も、普通ならあれこれ気を使いそうだが、特別な事はしない。
なぜなら3姉妹も、父が家を出た後母も家を出るという、かなり複雑な経験をしているからだ。
両親の愛をあまり受けられず、教師だった厳格な母方の祖母に育てられた3姉妹も、自分達のアイデンティティを護りながら成長していた。
その結果3姉妹は、それぞれ個性が異なり、時には意見も食い違うのだが、根底では深く深くつながる事となった。
お互い自由に生き、口では批判するものの、それぞれの生き方を否定するどころか応援をしているのだ。
そんな3姉妹だから、ごく自然にすずを受け入れる事となる。
そしてすずは、それまで自分の居場所を確保するためにいろいろと心の中で封印していたものを、3姉妹に迎えられる事によって解放することができた。

普通に暮らしていた3姉妹が、どのようにすずを受け入れるのかという部分にドラマが生まれそうだが、この映画はそういう映画ではない。
映画全体から見れば、すずが鎌倉に来ることは大きな事件ではない。
海猫亭のおばちゃん(風吹ジュン)の相続と病気、3姉妹の母(大竹しのぶ)が突然家を売ろうと言いだすなど、すずが鎌倉に来なくても発生したと思われる事件の方が、映画全体において重要なエピソードとなっている。

では、何がこの映画の素晴らしさなのかと言うと、映画全編に流れるゆったりとした自然な空間が、観ていてとても心地良いのである。
「親の不倫で置き去りにされた子ども」と言う、ともすれば重くて説教臭くなりそうなテーマだが、この映画にはそういう雰囲気はみじんも感じられない。
3姉妹は互いを気遣うものの、踏み込んではいけない領域には決して踏みこまない。
幸は自分達を捨てた母を許せず、祖母の死後も祖母のように妹二人に口うるさくしている。
妹たちはそれが母へのあてつけに近い事はわかっているが、反発してケンカになったりしない。
幸も佳乃が男と酒にだらしないことをわかっているが、それを厳しく叱責したりもしない。
この3姉妹の距離感が、非常に心地いいのだ。
さらにそこに、誰からも愛されるすずが加わるため心地よさが加速する。
昔ながらの旧家という設定も、観ている者の気持ちをより和らげてくれる。

また、鎌倉が舞台となっているのだが、普通に映画を撮ると江ノ島や大仏、鶴岡八幡宮などのシーンも入れたくなる。
しかし、そういうベタな観光地の風景は画面に一切登場しない。
出てくるのは海岸と江ノ電だけだ。
そういう、無駄なシーンを一切排除している点も、観ている者が映画に引き込まれていく要因となっている。
菅野よう子の音楽も、この映画にとてもマッチしている。

おそらく制作者は、できればずっとこの映画を撮り続けたいと思ったのではないだろうか。
桜のトンネルを走る時のすずの表情など、制作者が気持ちよく映画を撮っていると言う感覚が、スクリーンから伝わってくる。

また、出演女優の中でも手足が長くて一番スタイルのいい長澤まさみの肌の露出を多くし、序盤にはちょっときわどいアングルがあったりする。
山猫亭のマスターのリリー・フランキーのセリフも、必要最低限に抑えられている。
広瀬すずのサッカーセンスも非凡だった。
そういう制作者の細かい部分へのこだわりも、この映画の完成度を高めていると言えるだろう。

行き詰った時や心が疲れた時にはピッタリの映画だ。
観ていて心が癒され、ずっとずっとこの映画を観続けていたいと思わせる。
フジテレビがバンバン番宣をする映画はあまり評価されない場合が多いが、この映画に関してはそういうくだらない先入観抜きに、きちんと評価されるべきだと思う。


57.海街diary


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by ksato1 | 2015-06-26 07:17 | 映画 | Comments(0)