「ソロモンの偽証 後篇・裁判」

前篇はかなり面白い構成で後篇も期待していたのだが、期待以上の作品であった。

前篇の感想でも書いたが、前篇の中学生が裁判を開くまでの描き方が秀逸であった。
ある意味よくあるとも言えるが、中学生のドロドロした友人関係と、事なかれ主義に走ろうとする教師たちに対し、観ている者もフラストレーションが溜まり「真実を知りたい」という欲求が高まる。
そのため、中学生が裁判を開くという事実にあまり無理を感じない。

だが冷静に考えると、中学生が裁判を開いてもおそらく茶番に終わるだろう。
準備に時間を掛ければ掛けるほど、そのプロセスに満足して本番の中身が薄くなりやすいのが人間だ。
ましてや中学生、表面だけをなぞる「戯言(ざれごと)」になっても不思議ではない。
そして大人たちは、そんな中学生たちをどう見るのか。
下手をすれば、スーパー中学生たちが大人以上の活躍をして事件を解決する、まったくリアリティのない強引なストーリー展開になるのではないかとも思っていた。

しかしそうではなかった。
まず、メインキャストの藤野涼子と神原和彦のキャラ設定にブレを生じさせなかった点が、この映画の勝因だ。
この二人に、中学生だけではなく大人も本気にさせるオーラを持たせた事で、裁判が真剣勝負の場となった。
特に藤野涼子が、三宅樹里と浅井松子が大出俊次に暴力を振るわれているのを目撃しているのに逃げ出し、かつそれを柏木卓也になじられた事を強調している点が秀逸だ。
この部分で藤野涼子が単なる正義感の強い優等生ではなく、この事件を心の負の部分として行動を起こしている事がきちんと描かれている。
かつ、その後の主要キャストたちが取ったそれぞれの行動にも無理がなくなっている。

また、三宅樹里とその母(永作博美)の描き方もいい。
二人とも普通に考えればあり得ない行動を取るのだが、それが追い詰められて追い詰められて迷走した結果である事もとてもわかりやすかった。

大人のキャスティングも申し分ない。
刑事の佐々木(田畑智子)、元校長の津崎(小日向文世)、元担任の森内(黒木華)あたりの細かい演技、演出が、この映画のリアリティを強調していた。
特に、森内が垣内をビンタして泣き崩れるシーンは、ストーリー全体に大きな影響を与えるシーンではないものの、教師人生を潰された森内に感情移入してしまった。

そして中学生たちの親の演技もよかった。
迷走する三宅樹里の母である永作博美はもちろんの事、事故死した松子の両親、特に父親の塚地武雅の存在感が強烈に効いていた。
松子の母は、松子に近かっただけに学校関係者にそれほど悪意を持っていない。
しかし父親は、松子の死に対して学校への不信感を強く持っている。
途中、裁判にも反対しているのだが、実際に裁判が開廷すると、塚地の一言で会場が静まり裁判が始まる。
またラストシーンでも、裁判が終了して極度の緊張感から解放され藤野涼子と仲間たち、そして藤野涼子の両親はにこやかに話をしている。
しかし松子を亡くした松子の両親にとっては、にこやかに話すシーンではない。
その複雑な演技を、塚地がセリフではなく演技でキッチリ表現している。
松子の両親は、2時間半近くある後篇ではおそらく合計で15分程度しか出演していない。
それでもこの二人の演技があったからこそ、後篇全体が茶番にならず、真剣勝負の裁判の場になったと言えるだろう。

中学生はおよそ1万人の中からオーディションをしたとの事だ。
そして藤野涼子、神原和彦、三宅樹理、浅井松子、大出俊次、野田健一、柏木卓也らの演技を観ると、それだけオーディションした結果なのだと頷かされた。
ハッキリ言って、メインキャストの演技と裁判の傍聴席に並んでいる生徒たちの演技は、天と地ほどの差がある。
メインキャストの演技が巧すぎるため、傍聴席でざわめく生徒の演技がとてもわざとらしく見えてしまった(実際にはそれほどわざとらしい演技ではなかったと思うが)。

唯一不満を述べるとすると、柏木卓也がなぜ死ななければならなかったのか、その部分の説明がやや希薄な事。
この映画では、生徒たちだけではなくその親の心情までスポットを当てている。
時間の関係かもしれないが、柏木卓也と彼を護れなかった両親の苦悩まで掘り下げていれば、この映画はより完璧なものとなっていただろう。

演出、演技の素晴らしさはもちろんの事、それが効力を発揮するための脚本、そしてキャスティングが、この映画の完成度を高めたと言えるだろう。
成島出、二度目の日本アカデミー賞最優秀監督賞および最優秀作品賞を受賞する可能性も感じさせる作品だ。


41.ソロモンの偽証 後篇・裁判


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by ksato1 | 2015-05-08 06:15 | 映画 | Comments(0)