「くちびるに歌を」

予告編を観ていた段階では新垣結衣のためのアイドル映画かと思いまったく興味なかったのだが、TVCMで生徒たちの「私は父親に2度捨てられた」とか「先生、生まれた意味を考えた事がありますか」と言うセリフを聞き、ちょっと興味がわいて観に行く事にした。
だが、これが大正解。
若干作りが粗っぽい部分もあるものの、かなりの名作である。

天才ピアニストと言われた柏木ユリ(新垣結衣)は、最近ではまったくピアノを弾いていない。
そして親友松山ハルコ(木村文乃)が育休に入るためピンチヒッターとして、1年限定で故郷の五島列島にある中学校の音楽教師として赴任する事になった。
ハルコは合唱部の顧問もしていたため、ユリも無理やり顧問にされてしまう。
だがユリは誰に対しても無愛想で、指導を求める生徒たちも冷たくあしらっていた。
生徒は最初はとまどうものの、部長の仲村ナズナ(恒松祐里)を中心にしっかりまとまっていたため、ユリの指導なしで県大会を目指す事にした。
そこに、ユリ目当てで男子生徒が合唱部に入部してきてしまう。
ナズナは、男子は真面目に練習しないから全国大会を目指している自分たちの邪魔になるとユリに訴えるが、ユリは部活なんだから誰でも入部していいはずだし、そもそも今の実力では県大会にも進めないとナズナを突き放す。
ナズナたちは仕方なく男子を交えて練習を始めるのだが、その男子生徒の中に桑原サトル(下田翔大)も含まれていた。

サトルの兄アキオは自閉症で、水産加工場で働いているが一人では行動ができないため、サトルが送り迎えを行っていた。
桑原家ではどうしてもアキオを中心に生活する事になり、小さいころからその事をわかっていたサトルはこれまで自分の主張をまったくせず、おとなしく気弱なまま成長していた。
だが、たまたま同級生のケイスケと一緒に合唱部の見学に行く事になり、その後ケイスケから仲間のように扱われる。
サトルはその事が嬉しくて、両親に部活に入るために兄の送り迎えを1日置きにして欲しいと懇願した。
父親はサトルの要望を却下しようとするが、母親がサトルの願いを聞き入れてくれ、サトルも合唱部に入部する事となった。

初心者ながらも最上級生であるサトルとケイスケは真面目に練習をしていたが、この二人がいないと下級生の男子生徒はサボりがちであった。
その事をナズナがなじると、下級生の男子からどうしようもないのはナズナの父親だろう、と言い返される。
ナズナの父親はナズナの母親の死後、女を作って島から逃げ出していたのだ。
だがある日、ナズナの父親がひょっこり島に戻ってくる。
最初は戸惑っていたナズナだが、やはり父親の帰島が嬉しかった。
しかし父親はナズナの気持ちを裏切って、再び姿を消してしまう。

心に傷を負ったユリは、自分だけが不幸だと思い込んでいた。
しかしわずか15歳で、さまざまな重荷を背負っているナズナやサトルを見ているうちに、少しずつ堅く閉ざした心を溶かし始めて行く。

まず、サトルの演技に泣かされる。
どこまでも自分を押し殺して生きてきたサトルは、影が薄すぎて先生に名前も覚えてもらえない。
もちろん友だちもいない、それが当たり前と思っていたところに、ケイスケから仲間と言われた時のサトルの笑顔が印象的だ。
また、両親に部活をしたいと懇願し、その願いを母(木村多江)が聞き入れるシーン。
「サトルがお願いしたところを始めた見た」と言う言葉に、彼がこれまでどんな思いで生きてきたかが伝わってくる。
ともすれば自閉症を家族に持つ人たちから非難を浴びる可能性もあるのに、自分が生まれてきた意味を切々と語るサトルに、思わず涙をこらえきれなかった。

また、ナズナの父親のエピソードについては、少々安っぽい感じもする。
だが、ナズナが屋上に寝転がるシーンも、非常に印象的だった。

ユリがピアノを弾けなくなった事と留守番電話のメッセージや、ナズナとアキオのエピソードのなど、伏線の引き方も巧い。
ピアノを伴奏する生徒が休んでいる、と言っていたのに、放課後の部活にはいたりするなど、細かいシーンの粗は結構目立つ。
しかし、単純な自然光での撮影ではなく、教室に入ってくる光、あるいは草原や海辺での練習シーンなども効果的なライティングになっているなど、制作者の思い入れを強く感じる。

監督の三木孝浩と言う人は、これまで「僕等がいた 前篇・後篇」「陽だまりの彼女」「ホットロード」「アオハライド」などの青春映画を撮っている。
私がまず観る事のない映画ばかりだが、短期間でこれだけの作品を手掛けていると言う事は、そもそもセンスのある人なのだろう。

ちなみに、合唱部が大会で歌う曲として選んだのがアンジェラ・アキの「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」。
この歌は「書道ガールズ!! わたしたちの甲子園」でも挿入歌として使われていたが、すでに青春映画の定番曲と言えるかもしれない。


20.くちびるに歌を


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by ksato1 | 2015-03-05 22:13 | 映画 | Comments(0)