人気ブログランキング | 話題のタグを見る

「ゼロ・ダーク・サーティ」

「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグローが監督している。
どこからどこまでが本当の話かわからないが、クライマックスのおよそ30分間は、主人公がほとんど画面に現れないと言う珍しい映画である。

事実を元にしたフィクションだとわかっていれば、ちょっと長いけど面白かったと言いきれた。
ビンラディンの隠れ家を強襲するシーンは、カメラワークも秀逸、兵士の息遣いも伝わってくるような名シーンである。
だが、どれだけ事実に近かったのかと考えると、素直に「面白かった」と言いづらくなってしまう。

前半は、2003年にパキスタン支局に赴任したCIAエージェントのマヤを中心に、ビンラディンの足取りを追う物語だ。
事実かどうかわからないが、CIAがアルカイダのメンバーを執拗に拷問するシーンはちょっとすさまじい物がある。
もし事実だとしたら、人権的に許されないんじゃないかと言う気もした。

だがCIAがそこまでしても、ビンラディンの足取りは一向につかめない。
アルカイダの鉄の結束力の前に、何度もニセの情報を掴まされ、時には犠牲者まで出すことになる。
何年も手掛かりはないまま、誰もがもうビンラディンは死んだんじゃないかと思い始めた頃、マヤは埋もれていた情報を発見する。
すでに犠牲者を出している事で及び腰になる上層部の尻を蹴っ飛ばし、マヤは糸のような細い情報を根気よく手繰り寄せ、ビンラディンの連絡者の所在地を突き止める。
しかしその連絡者が本当の連絡者であるかどうかの、決定的な情報がない。
そうこうするうちに、ビンラディンの隠れ家と思われる建造物も特定する。
場所はパキスタンだ。
だがこれも決定的な証拠がないため、ビンラディン逮捕を強行する判断がつかないまま、4カ月近くが経過する。
いらだつマヤ。
そしていよいよ、逮捕作戦強行の日程が決まる。

この話が事実に近いのであれば、ビンラディンを発見できた事は、かなりの偶然が重なった結果であると言わざるを得ない。
そういう意味では面白いと言えるだろう。
だが、前半のアルカイダへの拷問やCIAの犠牲者の事まで考えると、単純に「面白い」と言っていいかどうかはわからない。
そして、ビンラディンの隠れ家を急襲した際、映画では子どもたちは一切殺されなかったが、本当にそうだったのかという疑問も浮き上がってくる。
本当は、暗闇の中で犠牲になった子どももいたのではないだろうか。
マヤが7年もかけてビンラディンを追うという物語の軸自体は面白い展開なのだが、事実に基づいている事を考えると、ちょっと複雑だ。

「ハート・ロッカー」の時は、誰かが「戦争中毒」という言葉を使ったとたん、あちこちのレビューやブログで「戦争中毒のアメリカ」という言葉が使われてウンザリした。
どの文章も薄っぺらくアメリカの批判をするだけで、正直読んでいて気持ちが悪くなった。
イスラム国家とアメリカには根深い因縁があり、現在もなおイランを中心としたイスラム原理主義はアメリカを敵視している。
だからこそ「9.11」が起こり、アルカイダ掃討作戦が実行された訳だが、その事を映画を観ただけの日本人が知ったかぶりして安っぽく語るのは、かなり恥ずかしい事だ。
同じアメリカの行為でも、対共産主義であった中南米への軍事介入と、イスラム国家への軍事進攻は、論点がまったく異なるのだ。

いろいろと考えてしまうが、映画としての出来は非常にいい。
長いという欠点はあるが、観た方がいいかどうかと問われれば、観た方がいいと答える映画である。


20.ゼロ・ダーク・サーティ

※こんな本書いてみました。
よろしかったらご購読ください


●放射能ヒステリックビジネス

http://www.amazon.co.jp/%E6%94%BE%E5%B0%84%E8%83%BD%E3%83%92%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%82%B9-ebook/dp/B00DFZ4IR8/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1371517543&sr=8-1&keywords=%E6%94%BE%E5%B0%84%E8%83%BD%E3%83%92%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF
by ksato1 | 2013-03-07 21:50 | 映画 | Comments(0)