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「ステキな金縛り」

これまでの三谷幸喜作品の中でも、最高傑作と言えるのではないか。
2時間を大きく超える上映時間だったが、まったく間延びする事もなかった。

「THE 有頂天ホテル」と「ザ・マジックアワー」は、複数の登場人物のエピソードがパラレルで展開し、それが一つに集約されるストーリーであった。
この「ステキな金縛り」はほぼ時系列的に話が展開し、途中から重要だったりそうでない登場人物が次々追加されていく。
そういう意味では「ラヂオの時間」に近いかもしれない。

とにかく、深っちゃんがかわいい。
すでにアラフォーではあるが、かわいさが作品中で大爆発している。
「踊る」シリーズのすみれさんは真面目でやや勝気な印象だったが、この深っちゃんは違う。
そもそも黒髪で化粧も薄めの女優さんなので、刑事とか弁護士とかお堅い職業の役がよく似合うのだが、今回のドジな半熟弁護士っぷりがとてもかわいい。
要するに監督が、深っちゃんをどう使えばいいかをよくわかっているのだ。

そして六兵衛役の西田敏行だ。
「THE 有頂天ホテル」以降、おそらく三谷幸喜の期待に100%以上こたえているのだと思うが、今回もすごかった。
そもそも絶妙なアドリブで作品を面白くする能力を持つ人らしいが、今回はおそらくそのアドリブが最大限に発揮されていると思われる。
幽霊を裁判の証人にするという荒唐無稽な話であるのだが、六兵衛が生前の無念を引きずりながらも、宝生(深っちゃん)との掛け合いの中では巧妙に、今風のしゃべり方で笑いを引き出している。
六兵衛が終始侍のしゃべり方だったりすると、全体のテンポが悪くなりギクシャクしてくるのだろうが、侍と現代人の切り替えが巧みなのでストーリー展開がとてもスムーズだ。
冒頭宝生が「幽霊って瞬間移動できないんですか?」と聞くと、六兵衛がやや吹き出しながら「ムリっす」と言うシーンで、もう笑いをこらえる事ができなかった。

さらにこの映画を引き締めているのが、検事の小佐野役の中井貴一だ。
宝生の上司の弁護士である速水(阿部寛)は、六兵衛の存在をアッサリ認めてしまう。
速水というキャラはここのところ阿部寛が得意とするスッとぼけキャラで、これがまたとてもいい味出しているのだが(タップダンスが最高!)、この速水と相対する位置に超頑固な小佐野がいる。
そして裁判長(小林隆)が、ギリギリな感じでユルい設定になっている。
これ以上ユルい裁判長だと設定自体に無理を感じてしまい、いかにも「作り物の世界」になってしまうと思うが、この程度のユルさだと「これくらい優しくて人のいい裁判長もいるのかな」と納得させられてしまう。
そのユルい裁判長にも、小佐野が正論でビシビシ突っ込む。
幽霊が証人と言うあり得ない設定でも話が陳腐化しないのは、この小佐野の存在が効いているからである。

途中から出てくる段田譲治(小日向文世)もいい。
あの世の人という設定だが、この演出が素晴らしい。
当然あの世の人を見た人はいないと思うが、たぶんあの世の人が存在したとするなら段田譲治のような人なのだろうと思えてしまう。
身振り手振りや画面内の位置取りなど、すべてがパーフェクトだ。
そもそもこの段田譲治に小日向文世を配したのも、ナイスな選択である。
「それでも僕はやってない」の裁判官役の時も、この人はシチュエーションによってはとても怖い人に見えると思ったが、今回は小日向文世の本当の力量を三谷幸喜が完全に引き出している。

もう何から何まで良すぎて、欠点がない。
唯一欠点をあげるとすれば生瀬勝久の使い方か。
三谷幸喜は観客が生瀬勝久に何を期待しているかを完璧に理解していて、その期待通りにベタな笑いを演じさせている。
観客は当然笑う。
でも新人監督ならまだしも、三谷幸喜が飛び道具的存在の生瀬勝久であの笑いを取るのは、市民マラソンにオリンピックの金メダリストが参加して優勝しちゃうようなものじゃないかな。
ちょっとズルいような気がする。
でも面白いんだけどね。
そうそう、深キョンの使い方もちょっと卑怯かな。
でも三谷幸喜は深キョンにファミレスの店員の制服着せて、胸チラさせたかったんだろうね。
あまりにもわかりやす過ぎて全然エロくなく、カミサンも「女性でも笑える」と言っていた。

私は観た事ないけどフランク・キャプラ監督の作品を登場させるなど、三谷幸喜のこだわりも感じられる。
たぶん今年度の日本アカデミー賞は間違いないだろう。
ただ、西田敏行が主演なのか助演なのか、判断が難しいよね。
助演だと中井貴一と食い合ってしまう。
西田敏行は主演、中井貴一は「プリンセス トヨトミ」との合わせ技で助演男優賞、ってのが妥当じゃないかな。

ちょっと上映時間が長いけど、それでも観に行く価値はアリ。
この映画がどれだけ面白いか、危ぶむなかれ、迷わず観ろよ、観ればわかるさ。


122.ステキな金縛り


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by ksato1 | 2011-11-03 17:24 | 映画 | Comments(0)