「冷たい熱帯魚」
とにかくカゲキな映画だ。
この映画と比べると、「十三人の刺客」でさえマイルドに思えてしまう。
試写会で観た映画にこういう言い方は問題大アリなのだが、正直誰にもすすめる事ができない。
監督は「愛のむきだし」の園子温。
「愛のむきだし」は観てないが、出演していた満島ひかりが脚光を浴びた事でも有名。
それ以上に内容も評価が高かった。
「冷たい熱帯魚」は監督自身が最高傑作と言っているらしい。
評価は賛否分かれると思うが、圧倒的なパワーは誰もが認めざるを得ないだろう。
ストーリーは、埼玉愛犬家連続殺人事件が下敷きになっている。
社本は小さな熱帯魚店を営むおとなしい男だ。
一人娘は若い後妻に馴染まずにグレてしまい、後妻は想像とは違った新婚生活にうんざりしている。
ある日娘が万引きで捕まり、そこから大きな熱帯魚店を経営する村田と知り合う事になる。
村田は個人経営主によくいそうなタイプだ。
大声で調子のいい事ばかり言って人を巻き込み、強引に自分の思い通りに事を進めようとする。
それに異を唱える者がいれば激怒し、大声で恫喝したりもする。
大言壮語で虚勢を張る見栄っ張り、自分の過去をなんでも自慢気に話すのが大好きだ。
この村田を演じているのがでんでんである。
ズバリ言ってこの映画は、でんでんが村田を演じた時点で8割方成功したと言っていいだろう。
とにかく素晴らしい演技だった。
実際に殺人事件の主犯格は、ややヤクザがかった人物だったらしい。
たしかに村田っていう人は実在するんだろうなと思うほど、でんでんが迫力の演技を繰り広げている。
吹越満の社本も静と動をうまく使い分けた巧い演技ではあったが、想定内とも言える。
しかし、このでんでんの村田には圧倒された。
その他のキャスティングも素晴らしい。
監督自身が最高傑作と言うのもうなづける。
ただし内容は連続殺人事件だ。
バラバラ殺人をそのまま実写化したと言っていいだろう。
そこまで見せる必要あるの?という声があがってもおかしくない。
私個人の意見で言えば、おそらく監督が撮りたいと思ったものがすべて映像化されているので、こういう映画があってもいいし、評価されてもいいと思う。
でも繰り返しになるが、他の誰かにすすめようとは思わない。
評価する人としない人の割合で言えば、よくて3:7、おそらく2:8くらいじゃないかと思う。
特に女性は見ない方がいい。
登場する女性の立ち位置と選択肢は「えっ?」という部分もあるのだが、それ以外は「人間って結局金と性欲だよね」が行動の原点になっている。
なので、行動そのものは異常であるが、ストーリーの展開という観点ではあまり無理がない。
昨日までごくごく平凡な日常を送っていた凡人が、いきなり犯罪、しかも凶悪犯罪に巻き込まれてしまう可能性だってあるのだ(実際に起こった事件がモチーフになっているし)。
特に、オリジナルで考えられたと思われる、村田の生い立ちの設定が効いている。
そういう風に育ったのなら、狂気の人間になってもしかたないか、とも思った。
150分近い作品であるが、これでもかとばかりに容赦なく人間の醜さ残酷さを突きつけられるので、まったくダレる事はなかった。
でんでんの演技だけでも万人に評価してもらいたいけど、日の目を見る事はたぶんないんだろうな。
それだけはとにかく残念だ。
12.冷たい熱帯魚