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「十三人の刺客」

ズバリ言おう、とても面白かった。
男なら必ずこの映画を観るべきである。
ただし、女性はどうかな。
残虐シーンが、男の私でもちょっと引くぐらい凄かったからねぇ・・・。

作品は1963年に作られた映画のリメイクだ。
調べたところ、その後に「集団抗争時代劇」というジャンルを確立したと評価されているようだ。
実際に作品を観たわけではないが、たしかにストーリーも素晴らしい。
リメイクにあたり内容も若干変わっているようだが、セリフ自体がどの程度書きかえられたのか興味がある。
なぜなら、劇中素晴らしいセリフが何度も出てくるからだ。

映画が始まった直後は、侍の回りくどい言いまわしで状況が説明されるためちょっと理解しづらい。
だが、慣れるとそれこそがこの映画の真骨頂である事がわかる。
「仕事人」のような時代劇では、照明を暗めにするものの、肝心な部分はきちんと光を当ててわかりやすくする。
しかしこの映画はそういうコントラストを付けることなく、廊下、室内ともぼんやりとした明るさでリアリティを出している。
そこに侍の口調で物語が進むと、非常に重厚な作品に見えてくる。
自分的には三池崇史って「ゼブラーマン」とか「ヤッターマン」のイメージだっただけに、「これって本当に三池崇史の映画なの?」と驚かされた。
女性の化粧も、眉なしの真っ白な顔にお歯黒がべったり塗られていたりして芸が細かい。

そして冒頭にも書いたが、残虐シーンだ。
この松平斉韶の暴君振りがスゴイ。
これでもかとばかりに暴君振りを発揮している。
クビを刀で切り落としたり、農民の娘の手足を切り落として舌をひっこ抜いちゃったり、年端もいかぬ子どもや妊婦を至近距離から射抜いちゃったり。
PG12指定もうなづけるが、個人的にはR15+指定でもいいような気もする。

この、とても酷い残虐シーンをひょうひょうと演じているのが稲垣吾郎だ。
これはすごかった。
素晴らしい演技だった。
松平斉韶は単なるバカ殿ではなく、最後の最後まで自分の信念を貫いた狂人である。
この狂人の恐ろしさを、見事に演じきっている。
ジャニーズは競い合う賞は辞退するという決まりがあるので、おそらく稲垣吾郎も辞退をするのだろうが、この演技だけはそういうタテマエ論を排除してきちんと受賞してもらいたいと思う。
それだけの完成度だ。
YouがCanなら考え直しちゃいなよ、ジャニーさん。

ストーリーは江戸での謀略から始まり、新左衛門と半兵衛のヒリヒリするような駆け引きが続く中、クライマックスシーンの中山道落合宿へと移っていく。
最初は古典的時代劇の様相を呈し、やがて「仕事人」的な時代劇へと移行して行くのだが、すべてのキャスティングがドンピシャでハマっているのでこの展開もスムーズ。

老中土井役の平幹二朗、明石藩鬼頭半兵衛役の市村正親、尾張藩牧野靭負役の松本幸四郎が重厚で完ぺきな演技をする。
そこにひょうひょうとした島田新左衛門の役所広司がアクセントとなる。
そこから、平山九十郎の伊原剛志、倉永左平太の松方弘樹が登場、三橋軍次郎の沢村一樹、島田新六郎の山田孝之あたりになるとかなり身近になってきて、高岡蒼甫、波岡一喜、石垣佑磨という最近のヤンキー映画系の定番役者が続き、六角精児、古田新太というクセモノを登場させる。
そして極め付けが伊勢谷友介の小弥太だ。

この小弥太がお笑いの部分を一身に背負い、物語にメリハリを利かせてくれている。
まあ、小弥太の頑丈ぶりはちょっと反則なような気もするが、これはこれでアリだろう。

クライマックスの大活劇シーンは言わずもがな。
アクションはもちろん迫力満点だが、その展開も巧い。
13人がどのあたりからやられるのかと観ていると、みんななかなか倒れない。
あれ、これって意外と生き残る人多いの?、と思わせた瞬間から、味方もどんどんやられ始める。
それでも後から後から湧き出てくる明石藩士。
本当に、手に汗握らせられたよ。
クライマックスシーンのセリフも素晴らしかった。

脚本を担当したのは天願大介。
「武士とは何か」という主題を、すべて登場人物のセリフと行動で表現させている。
それがまたカッコいいんだ!
左平太の「人生とは長さではない(量ではなく質な)のでは?」とか、家を出る新六郎の「(帰りが遅くなった時は)盆に帰ってくる。迎え火を焚いて待っててくれ」とか、半兵衛の「(武士として生まれた)理由など知らぬ、いや理由などいらぬ!」とかね。

はねられたクビがコロコロ転がるシーンが何度かあるんだけど、その転がり方だけがサッカーボールみたいでちょっと軽い感じがしたかな。
でも、本当にクビが転がるところを見たことはないので、それがリアルなのかもしれないけど。

仕事とはなんのか、男子の本懐とはなんなのか、かなり無骨に見せてくれる映画である。
だから宮仕えのサラリーマンは、見ておいて損のない映画だと思う。


81.十三人の刺客
by ksato1 | 2010-10-22 07:35 | 映画 | Comments(0)